死因が事故とされない損害賠償について

9月8日の朝5時ころ、母親(83歳)が手押し車で、交差点でもなく横断歩道もない道(片側一車線)を南側から北側に横断中、北側の道路で車にはねられ、南側まで飛ばされました。
母親は大けがをして、入院し、数回にわたる手術を行い、少し容体が安定し、11月20日にリハビリ中心の病院に転院しました。
そして、11月27日に容体が急変し、亡くなりました。事故前から肺炎気味で、きっかけとしては事故によりますが、、主たる原因は肺炎とされました。

この場合、損害賠償等はどうなりそうでしょうか?

お母様がご逝去されたとのこと、お悔やみ申し上げます。

交通事故と死亡との因果関係という難しい問題が争点になると思われますが、加害者側保険会社から、因果関係を否定されたり、妥当とは言えない賠償額を提示される可能性があります。
交通事故の被害者が、入院中に別の病気を併発して死亡しまう場合がありますが、事故を理由に入院治療をすることで衰弱してしまい、肺炎などで死亡してしまうということはあり得ます。裁判例などでは、そのようなケースで因果関係は肯定されることが多いと思います。

弁護士に個別に相談等して、妥当な解決を目指した方がよいように思います。

高齢者が交通事故に遭った後、直接の死因は肺炎等とされるものの、交通事故による受傷が影響を及ぼしたものと言え、交通事故と死亡との間に相当因果関係を肯定できる場合があります。
 例えば、神戸地裁平成14年2月14日判決では、以下のように、交通事故による受傷→健康状態の悪化→肺炎の罹患→死亡という流れを認定し、相当因果関係を肯定しています。

「亡Xは,本件事故による受傷自体によって,直ちに死亡したものとはいえないものの,本件事故による受傷と脳梗塞の後遺障害とがあいまって,ほとんど寝たきりの状態となり,それによって,体力・免疫力の低下を来し,健康状態が悪化し,肺炎を罹患して死亡するに至ったものと認められ,亡Xのような高齢者の場合,ほとんど寝たきりの状態になれば急激に体力の低下を来すことは通常あり得ることであるから,亡Xの死亡と本件事故との間には相当因果関係があるというべきである。」

 上記判決の被害者に関しては、85歳、左片麻痺を有していた、事故から約150日後に肺炎で死亡等の事情がありました。
 他方、お母様の事故のご事案では、83歳、事故前から肺炎気味、事故から約80日後に肺炎で死亡等のご事情が見られます。
 お母様のご事案でも、カルテ等の医証の精査や立証の工夫等により、上記裁判例のように、交通事故と肺炎による死亡との間に相当因果関係を認めさせる余地があるかもしれません。
 より詳しくは、交通事故問題に取り組んでいる弁護士に個別に問い合わせる等して直接相談してみて下さい。

事故前に通院していた病院に確認したところ、肺炎はなかったようです。
もしそうであれば、事故による死亡に少しはつながりやすくなるでしょうか?

>事故前に通院していた病院に確認したところ、肺炎はなかったようです。
>もしそうであれば、事故による死亡に少しはつながりやすくなるでしょうか?

はい、因果関係が肯定される可能性を高めるご事情であると考えられます。

>事故前に通院していた病院に確認したところ、肺炎はなかったようです。もしそうであれば、事故による死亡に少しはつながりやすくなるでしょうか?
→ 事故の影響により肺炎を発症した可能性が高まる事情かと思います。
 入院中の病院のカルテ類(看護記録なども含みます)を入手し、症状の推移等を精査の上、担当医に話を聴く•意見書を書いてもらう等の方法で因果関係の立証を目指したいところですね。
 なお、担当医の引退•移籍等で直接話しを聴けなくなる、時間の経過によるドクターの記憶の低減などの問題も起こり得るので、これらの着手はなるべく早めの方がよろしいかと思います。

まずは、医師に死亡診断書を作成してもらった上で、自賠責保険金の請求手続を行います。
自賠責保険金の支払額を審査する過程で、交通事故と死亡との因果関係についても審査が行われます。
事故によって重篤な怪我を負っており、その入院中に死亡した場合には、事故と死亡との因果関係が認められる可能性が高いと思います。

警察にも死亡診断書提出するように言われております。
おそらく事故について、聞かれると思いますが、この後の損害賠償までの流れは、どうなりそうでしょうか?

今後の進行としては、
・警察による聞き取り調査
・加害者の起訴(あるいは不起訴の決定)
・刑事裁判において量刑決定
・加害者側任意保険会社と示談交渉
・示談成立(示談できなかった場合は裁判)
となります。なお、警察では、お母様の生前のご様子やご遺族の被害感情、加害者に対する処罰感情など尋ねられるはずですので、率直にお答えになるとよいと思います。

自動車運転過失致死への切り替えの可能性を検討すべく、刑事事件の捜査の一環で警察への死亡診断書の提出を求めているものと思われます。

 刑事事件の捜査状況や自動車運転過失致死での起訴見込み等を踏まえ、対応して行くことが考えられます。
 例えば、刑事事件として、自動車運転過失致死で起訴見込みの場合、刑事記録を入手する等して、民事の損害賠償でも証拠として活用し、交通事故と死亡との因果関係を立証して行く方法が考えられます。
 他方、刑事事件として、自動車運転過失傷害での起訴見込みの場合、刑事事件の処分が確定する前に、自賠責保険に被害者請求をする等の方法をとることも考えられます。
 弁護士にご依頼されるのであれば、刑事事件の捜査動向や起訴見込み等も踏まえ、適切な方法•タイミングで損害賠償請求をしてもらうと良いかと思います。

加害者から葬儀に行きたいとの連絡がありましたが、
葬儀についてはお断りしました。
そうしたところ、その後お線香だけもあげたい旨の連絡がありました。
今回の場合、加害者にお線香をあげさせた場合と断った場合では、
損害賠償の面に何か影響はあるでしょうか?

相手方はお線香をあげたことを有利な事情として主張してくる可能性がありますが、刑事事件の量刑判断や損害賠償(慰謝料)の金額評価の考慮要素としては、行為態様や生じた結果の重要性等の犯罪事実に関する事情が重要であり、お線香をあげたか否かのような事情は大きな影響を及ぼす要素ではないでしょう。

>今回の場合、加害者にお線香をあげさせた場合と断った場合では、
>損害賠償の面に何か影響はあるでしょうか?

法的な議論としては無影響ですので、お線香をあげたのだから慰謝料等の減額事由になるというような主張を加害者側(保険会社)がしてくることはあり得ないと思います。

警察より調書を取りたいとの連絡がありました。
調書作成時には、どんなことに注意したらいいでしょうか?

警察での調書作成時は、ご遺族としての被害感情や加害者に対する処罰感情などについて、正直にお答えになるとよいと思います。

お母さんが亡くなったことに対する気持ち、加害者に対する気持ち等を尋ねられると思います。
それらについて、率直に伝えたらいいと思います。

事故直後に保険会社の方から、「道路状況から8対2からになると思います」と言われました。
過失割合が8対2だとして、損害賠償額はおよそいくらになりそうですか?
いくらからいくらとご教示いただけたら幸いです。

事故とお亡くなりなったこととの間に相当因果関係が認められる場合を前提としつつ、現時点で判明しているご事情に基づく試算とはなりますが、治療費等の既払いを除き、2250〜3000万円程度の損害賠償額が予想されます(賠償対象となる損害項目や過失割合等により金額が変動する可能性あり)。

 ※入院慰謝料150万円程度、死亡による慰謝料2000〜2500万円
  ※この他に、休業損害(家事従事者の可能性)、逸失利益(家事従事者の可能性、年金部分の逸失利益)、葬儀費用150万円程度などの賠償も得られる可能性があります。
 ※また、遺族固有の慰謝料として数百万円程度請求できる可能性もあります。
 ※事故状況の精査により、過失割合を2割よりも少なくできる可能性があります(過失割合が1割異なると、損害賠償額が数百万円異なる可能性があるため、過失割合についてはしっかりと争って行くべきでしょう)。