役員株主の相続人に対する株式の売渡請求及び裁判所に対する株式価格決定の申立により、故役員との買取合意価格での株式の買い取りに成功した事例
森 直也
弁護士
【ご相談内容】<相談前>
依頼会社では、永年勤務してくれた役員への感謝の意を込めて、会社株式を額面で譲渡することが慣習化していました。
株式を譲り受けた役員は、会社を退社したり、死亡したときには、譲り受けたのと同額(額面)で株式を会社に譲り渡すことを合意し、その代わりに保有期間内に株式配当を受領することができました。
しかし、退社時・死亡時に譲り受け額と同額で会社に株式を売り渡すという合意は明確に書面化はされていませんでした。
このような状況下で、株式を保有していたある役員が亡くなりましたが、その相続人が、会社からの額面での株式売り渡し請求を拒絶しました。
そこで、会社は、相続人に対して会社法176条1項に基づき総会決議により株式の売渡請求を行ない、さらに裁判所に対し、株式売買価格決定の申立を行った。
<相談後>
裁判において、株式買取価格については、引受人である役員と会社と間で合意があり、相続人も当然その合意を承継していると主張しました。しかし第1審裁判所は当方のこの主張を認めず、株価の鑑定を行った上で、時価額を株式価格であると認定しました。
この決定を不服として、高裁に抗告申立を行いました。
抗告審においては、株式が取得者の死亡により包括承継された本件の場合、たとえ譲渡の際に交わした合意が当事者(相続人)を拘束するとしても、何ら取引の安全を害することにはならないことや、そもそも亡くなった役員自身、額面での株式の買い取り制度に深く関わっていたことなどを強く訴えました。
その結果、抗告審は第1審の決定を覆し、株式買取価格は、当初の合意どおり、額面によることが妥当であると判断しました。
同結論は、その後最高裁判所においても是認され、結果,買取価格は当方主張のとおり、額面によるべきことが確定したのです。
<ポイント>
ご依頼者の会社では、現代表者の先代(現社長の父)のころから、会社のために尽くしてくれた役員への感謝の意を込めて、株式を当該役員に譲渡し、その存命の間、会社との一体感を持って貰い、また、配当を受け取ってもらっていました。
このような先代社長の役員への感謝の想いを実体化したのが、額面による株式の譲渡及びその後の買取という制度でした。
ところが今回の裁判では、そのような想いが逆手に取られ、高額での買い取りが相続人より主張されたのです。
裁判の結果、こちらの主張が全面的に認められ、額面での買取が実施されました。
現代表者も「父の役員への想いが認められた」と、大変喜んでいただけました。
金額の面だけでなく、経営者のこのような想いを裁判の結果に反映できたことが、望外の喜びとして心に残っています。