債務の相続については、対外的には法定相続分の割合によります。これは、対内的な都合で外部債権者の予想を害するべきでないこと、対内的なことを外部の債権者は知り得ないことによります。しかし、相続分、遺留分の算定においては、遺言者の指定があれば債務の具体的な負担もその指定によることになります。遺産相続共同体内部のことで第三者を考慮する必要がないからです。そして遺言に明文の指定がない場合でも、通常遺言者の意思は、相続させる財産額に応じて各相続人に承継させるものと解され、遺言者の意思を別だと考えるべき理由がないのであれば、内部での債務の負担も遺言で指定された相続分に応じたものと考えることになると思われます。
これを相談者の方の事例に当てはめると、Aの相続指定財産の金額が2500万円、従って財産の相続割合が6分の5,Bの相続指定財産の金額が500万円、割合が6分の1で、債務もその割合となります。つまり、Aが600万×5/6で500万円、Bが1/6で100万円です。これを基に遺留分額を計算すると、まず相続財産は3000万円-債務600万円=2400万円。これにA、Bの法定相続割合を掛けると、各1200万円になり、さらに遺留分割合の1/2を掛けると、600万円となり、これが遺留分額になります。次いで具体的な遺留分侵害額をBについて計算すると、先ほどの遺留分金額からBの相続総額(指定された相続分の金額500万円-相続債務額100万円)を差し引くことになります。そうすると遺留分に足りない金額は、600万-(500万円-100万円)=200万円になります(--で債務は+になる)。つまり、これだけの金額をBはAに遺留分侵害額として請求できるわけです。
Aが債務全額を支払った場合(ただしAの対外的な支払い義務は300万円まで)、AはBに対する関係では債務を弁済した求償としては100万円を請求することができる。しかし、Bは200万円の遺留分侵害額請求権があるので、この権利を行使する意思を明らかにして(権利行使するか否かは権利者の意思に任されている)、100万円の相殺請求をして支払いを拒否できます。なお、遺留分侵害額請求を100万円に限って行うだけの意思しか表示しないと、残り100万円については1年の時効は進行しますから注意が必要です。
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