「朝日訴訟は、立法裁量権の著しい逸脱があれば司法審査の可能性を認めるという判例」という説明は誤りでは
ある参考書にて、次のような解説が書かれてありました。
「朝日訴訟(最高裁昭和42年5月24日)は,
生活扶助基準の認定判断は,
厚生大臣(当時)の合目的な裁量に委されているとしながらも,
立法裁量権の著しい逸脱があれば,
司法審査の可能性を認めるという判例である。」
しかし、
その最高裁の判例を確認したところ、
「現実の生活条件を無視して
著しく低い基準を設定する等
憲法および生活保護法の趣旨・目的に反し、
法律によつて与えられた裁量権の限界をこえた場合
または裁量権を濫用した場合には、
違法な行為として司法審査の対象となることをまぬかれない。」
とは記されているものの、
立法府の裁量権については言及されていません。
よって、上記の参考書の解説は、
「“立法裁量権”の著しい逸脱があれば,
司法審査の可能性を認めるという判例である。」
ではなくて、
「“行政裁量権”の著しい逸脱があれば,
司法審査の可能性を認めるという判例である。」
の誤りではないかと思うのですが、
どうなのでしょうか?
疑問に思ったので宜しくお願いします。
結論から申し上げますと参考書の記述が正しいです。よく判旨を読んでいただきたいのですが,「基準」を設定するのは法律を制定する国会であり,立法裁量に委ねられています。「認定」判断をするのが行政であり,行政裁量に委ねられています。「現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定する」おそれのある主体は国会です。ですので,後の「裁量権」の主体も国会となります。
ご回答ありがとうございます。
そうなのですね。
ところで、いま私は以下のように解釈したのですが、
これは合っているのでしょうか?
①生活扶助の「基準」を設定するのは、
国会もしくは国会が委任立法によって委任した厚生(労働)大臣である。
②その生活扶助基準に当てはめて、誰にどの程度の生活扶助を支給するのかの「認定」判断をするのは行政です。
①は、実際に「基準」を設定するのは厚生(労働)大臣であっても、その設定は国会からの委任立法によって行っているものなので、その主体は国会であり、立法裁量である。
これで合っているのでしょうか?
間違っているのでしょうか?
①③が間違いです。生活保護法は,憲法25条により法律事項であり,委任立法はできません。先の回答にも書いたとおり,「現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定する」おそれのある主体は国会です。②を補足すると,「認定」判断をするのは厚生大臣(当時)となります。
ちなみに,先の回答はあくまでも朝日訴訟の判旨の読み方であり,現在の実務とは異なることを指摘しておきます。基準については委任立法により厚生労働大臣が決められます。
ご返信ありがとうございます。
ということは、つまり
①生活扶助の「基準」を設定するのは、国会自身である(委任立法は出来ない)。
②その生活扶助基準に当てはめて、誰にどの程度の生活扶助を支給するのかの「認定」判断をするのは厚生(労働)大臣である。
ということで、よいでしょうか?
生活保護は法定受託事務の一つであり,国の裁量に広く委ねられています。このように理解されてみてはいかがでしょうか。大元の基準の設定は国会(国),実際の支給基準の設定は厚生労働大臣(国),支給を決めるの各は自治体。
朝日訴訟の判旨はあくまでも立法裁量に関するものです。
ご返信ありがとうございます。
あくまでも、“朝日訴訟の判旨は”立法裁量に関して言及しているものである、ということであり、
現在の実務においては、基準については委任立法により厚生労働大臣が決めている、ということですね?
そのとおりです。ようやく落ち着きました。これからも法学の勉強に励んでください。
ありがとうございました。