医学的意見と会社実情を踏まえ、自主退職で円満解決した事例
上遠野 鉄也
弁護士
【ご相談内容】<相談前>
地方都市でサービス業を営む会社において、入社5年以内の正社員である男性社員が「適応障害」との診断を受け、約2か月の休職に入りました。休職後、本人および主治医の「就労可能」との判断を受けて復職したものの、6か月も経たないうちに再び体調不良による欠勤や早退が増加しました。朝出社できない日が続いたり、出勤しても途中で帰るケースが頻発し、周囲の社員に業務負担が集中。社内には不満や不安の声も広がっていました。
会社はやむなく再度の休職を命じましたが、本人は「辞めたくない」「いずれ復職したい」と強く希望。一方で会社としては、再度復職させても同様の状況が繰り返される懸念や、休職期間満了時に退職扱いとした場合の法的リスク(無効と争われる可能性)に不安を抱き、対応に悩んでいました。
<相談後>
当事務所ではまず、就業規則や休職制度、復職基準の内容および運用状況を丁寧に確認しました。その上で、形式的に「休職期間満了=退職」とするのではなく、実態に即した慎重な判断が必要であることを前提に対応方針を整理しました。
次に、主治医に対する情報提供書および意見照会書の作成をサポートし、医学的見地から復職可能性を具体的に把握。その結果、「従前と同様の業務は困難だが、業務内容や勤務時間を調整すれば一定の就労は可能」との見解が示されました。
これを踏まえ、会社としては短時間勤務や軽易業務への変更を前提とした復職案を提示。本人との面談では、医師の意見や会社の受入れ条件、現実的な就労可能性を丁寧に説明し、その内容を記録として残すよう助言しました。
複数回の協議を経て、最終的に本人は「体調や将来を考え退職したい」と自ら申し出るに至り、会社はこれを受理。自主退職という形で円満に解決しました。結果として、法的リスクを回避しつつ、社内の負担や不公平感も解消されました。
<弁護士からのコメント>
休職と復職を繰り返す社員への対応は、法的リスクと現場負担の双方を考慮する必要があり、非常に難しい問題です。特に重要なのは、就業規則に基づく形式的な判断に頼るのではなく、医学的意見と会社の受入れ可能性を照らし合わせて、実態に即した判断を行うことです。
また、復職の可否や条件については、主治医の意見を適切に把握し、その内容を踏まえた検討過程や面談内容を記録として残しておくことが、後の紛争予防に直結します。
本件のように、十分な検討と説明を尽くすことで、最終的に本人の納得による自主退職に至るケースも少なくありません。企業側として「どこまで対応すべきか」「どのように判断すべきか」に迷う場面では、早期に専門家へ相談することが、円満かつ適切な解決への近道となります。