抵当権に基づく賃料差押と時効中断について

抵当権により、抵当不動産の賃借人の賃料が差し押さえられている場合(物上代位)なのですが、仮に差押債権者が賃借人から賃料を実際に回収できていないような場合で期間が経過していても、主債務の時効は中断したままなのでしょうか?

ネットなどで調べると、改正前の民法では、差押えが取り消されると時効中断の効力が生じないとされていて、差押結果について報告がない場合は差押命令を取り消すという通知が裁判所から差押債権者に届くようですが、賃料差押の場合も同様なのでしょうか?
また、差押命令が取り消されたかどうかは裁判所に確認すれば、教えていただけるものなのでしょうか?

私は、抵当不動産の所有者の相続人なのですが、賃貸借などの詳細な事情を全く知らず、他の相続人に送付されていた差押命令が何故か私には送付されておらず、差押の事実自体を知りませんでした。

一般論で構いませんので、ご教示のほど宜しくお願い致します。

物上代位により差押えがされている場合、差押えの請求債権につき、その事由が終了するまでの間時効の完成が猶予されます(民法148条1項2号)。
※令和2年4月1日前の差押えであれば、時効が中断(改正前民法147条1項2号)。
そして、差押えにつき取立の有無に関する届け出をしないことで取り消された場合(民事執行法155条6項)は、民法148条2項の「法律の規定に従わないことによる取消し」には該当しないと考えられているので(『Q&A令和元年改正民事執行法制』362頁(金融財政事情研究会))、取り消された時点から新たに時効が進行することになります(民法148条2項)。

差押取消決定は所有者にも通知されるはずですが、相続発生が裁判所にわかっていない場合には、被相続人宛てに通知されることになります。

抵当不動産の所有者の相続人であれば、事件の記録の閲覧謄写も可能となりますが(民事執行法17条)、相続人であることを証明する必要があり、また、電話でどこまで教えてくれるかは裁判所次第と思います。

民法148条
1 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
 二 担保権の実行
2 前項の場合には、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。ただし、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、この限りでない。

※改正前民法
147条
時効は、次に掲げる事由によって中断する。
 二 差押え、仮差押え又は仮処分
154条
差押え、仮差押え及び仮処分は、権利者の請求により又は法律の規定に従わないことにより取り消されたときは、時効の中断の効力を生じない。
157条
1 中断した時効は、その中断の事由が終了した時から、新たにその進行を始める。
改正附則10条
2 施行日前に旧法第百四十七条に規定する時効の中断の事由又は旧法第百五十八条から第百六十一条までに規定する時効の停止の事由が生じた場合におけるこれらの事由の効力については、なお従前の例による。

島田先生

お忙しいところ、詳細なご回答ありがとうございます。裁判所にも確認をしてみようと思います。
ちなみに、参照条文をみる限り、時期的に改正前民法154条の話になるのですが、取り消された時点から新たに時効が進行するとなると、5年の消滅時効期間の債権の場合は取消時から5年という理解になりそうでしょうか。

おっしゃるとおりだと思います。