地籍調査の結果無番地とされた土地について依頼人の土地であると主張して自治体を相手に境界確定訴訟をして、無番地に番地を入れて公図を書き換えて、依頼人の所有であると確定した事例。
喜多 芳裕
弁護士
【ご相談内容】 Aさんは乙土地に居住しており、隣接しているB市道に面している甲土地を来客用の駐車場として使っていましたが、道路を挟んだ向かいの丙土地の所有者 Cが「この土地は無番地であり国有地だから自由に車を駐めてもいい。」と言って車を駐車するようになり、来客が駐車できないようになりましたので、Aさんが公図を調べてみると甲土地は地籍調査の結果無番地となっていました。
Aさんは土地家屋調査士に何とかならないかと尋ねたのですが、「地籍調査の結果で決まっているのでどうしようもない。」ということであり、何人かの弁護士に相談しても同じ回答だったので、つてを頼って私のところに相談に来ました。
調べた結果この市道は従前は里道で幅員が90cm程度しかなかったのですが、両方の土地の所有者から少しずつ土地を提供してもらって車が通れるようにしたということがわかりました。
その後B市は提供してもらった土地も含めて市道であることを確定するために官民境界確定手続を行ったのですが、甲土地の前後は官民境界が確定されているにもかかわらず甲土地の部分は官民境界確定ができていなかったのです。
Aさんから話を聞くと、「Aさんは乙土地で生まれて居住していたけれども、ある時期に乙土地を離れて別の土地に住むようになった。乙土地はある程度の期間誰も住んでいなかったが、何年か前にAさんが乙土地に戻って住むようになった。地籍調査には立会していないし、立会の通知を受け取ったことはない。」ということでした。
B市の担当者に「何故甲土地の部分は官民境界確定が出来ていないのだろうか?」と聞いたところ、「当時の担当者はもう在籍していないのでなぜか分からない。」ということだったのですが、Aさんの話を伝えると、「甲土地の官民境界確定をしようと思った時、誰も住んでいなかったので立会ができず、確定ができなかった可能性もあるのではないか。」ということです。
土地と土地との境界というのは客観的に決まっており当事者の合意では動かせません。
土地の所有者は所有権の範囲を隣地所有者との合意で決めることができますが、境界は動かすことができないのです。
地籍調査で確定した境界が動かせない理由は「資料に基づいて確定した。」ということのですが、その資料が正しい境界を示しているのか否かは当事者の検証を要するのであり、当事者の立会権を保障することが必要なのです。
当事者の立会権の保証のためには、まず立会について事前の通知をすることになっており、事前の通知を受けた当事者が立会しなくとも地籍調査の結果を市役所などで縦覧させ、縦覧期間が経過しても異議が出ない場合に初めて確定する、という二段の手続を設けています。
この事件では郵便の転送期間が過ぎていたため、Aさんの住所地に立会の事前通知が来なかったのですが、Aさんは住民票を移していたので B市の担当者が住民票を調べれば Aさんとは連絡がついた筈であるにもかかわらず、Aさんに連絡しないまま立会が強行されたという点に問題があります。
Aさんの話では、「ここは以前はb町であり、甲土地の向かいの丙土地の所有者の兄はb町の町議会議員だったから担当者に圧力をかけたのではないか。」ということでした。
判例を調べると、地籍調査で確定した境界の変更を認めた裁判例は二例あり、二例とも立会手続きに不備がある場合でした。
そこで、Aさんの手元にある古い図面を資料として、詳細に事情を説明をした49頁もの長文の訴状を作成して、B市を相手に境界確定訴訟を提起しました。
担当した裁判長はこのような事例に遭遇するのは初めてのようで、どのようにしていいのか戸惑っており、訴訟は空転しました。
しかし、四か月後に裁判長が交代して、大阪高裁の右陪席をしていた裁判官が担当の裁判長になりました。
この裁判長は前年に私が1審で勝訴して控訴された事件で高裁の担当裁判官として私の膨大な準備書面を読んで私の考え方を理解して、全面勝訴の判決をいただいた方です。
裁判長は私の長文の訴状や膨大な準備書面を読んで私の主張を全面的に理解してくださって、私の訴状の通りの内容で勝訴判決を得ました。
境界確定訴訟には測量図を添付しなければならず通常は土地家屋調査士に依頼するので数十万円かかります。
Aさんは費用がないということで訴状では私がB市にある旧測地系による測量図をもとにこれを修正して図面を作成しました。
この時に「測量」について文献を買い込んで「ジオイド」、「測地系」などについて学び、古い文献や旧測地系、新測地系なども勉強しました。
和解成立後B市に「寄付して拡張した部分を分筆登記してB市の所有とすることを同意するので、B市で測量して登記したらどうか。」と恩にきせてB市の費用で測量して登記させました。