土地を掘削して隣地の一部を崩落させた土木業者に対し隣地所有者が4500万円という過大な請求をしたが、理を説いて妥当な金額で和解した事案。
喜多 芳裕
弁護士
【ご相談内容】 甲土地とその西側に隣接するD所有の乙土地は同じ高さの土地だったのですが、甲土地は道路から高かったので甲土地の所有者Bは土建業者のAさんに2メートル程度切り下げるよう造成工事を依頼しました。
造成工事はC設計士が設計したのですが、 その設計図によれば甲土地の西側を乙土地ギリギリまで養生もせずに切り下げるようになっていましたので、AさんはC設計士の設計通り乙土地ギリギリまで切り下げていったところ、乙土地の南東が崩れ、境界線付近あった倉庫が落下してきたのです。
DはAとBに、「乙土地ギリギリまで切り下げたために家全体が傾いた。この家には住めないから家の改築費用を出してもらいたい。」と言ってきました。
Aが建築業者に家の改築費用を見積もってもらったところ2500万円程度かかるということでした。
ところがその後風呂場の下の水道管の継ぎ目から漏水があり乙土地の東側はこの漏水で地盤が軟弱になっていることが明らかになりました。
そこで、AとBは私のところに相談に来たのです。
私は妥当なDの損害額とそれぞれの責任を勘案し、A、B、Cそれぞれが200万円、計600万円の示談金を提示したのですが、Dはこれに応じずP弁護士を代理人としました。
私はP弁護士に乙土地の地盤の強度を調査したい旨申入れたところP弁護士もこれに同意しましたので、サウンディング調査という方法により乙土地の地盤の堅さを調査をしたところ、N値(地盤の硬さを示す数値)はとても低く、調査をした担当者は「豆腐の上に家が立ってるような状態だ。」と言いました。
倉庫が落下した直接の原因はAの掘削によるものですが、この家が傾いた原因は長年の風呂場の地下からの漏水により地盤が軟弱化し、その軟弱な地盤の上に基礎を増強しないまま2階部分を建築して基礎にかかる重量が増えたことなどによるものと思われます。
そこで私ははP弁護士にその旨説明して、「 A、Bそれぞれ200万円ずつなら支払う。」と言ったところ、Dはこの申し入れには応じずに訴訟を提起してきました。
Dは訴訟において地盤の改良費用と家の取壊し、再築費用として約4500万円を請求してきました。
この家の台所の流し台は古いステンレス製のものでリユースショップに行けば 5万円程度でも買えると思われますが、 Bの見積もりでは数十万円するシステムキッチンが入っており、風呂場も安価なポリエチレン製のバスタブですが数十万円のシステムバスで見積もっていました。
例えば 200万円で買った自動車を十年使った時点で壊された場合、中古車市場が確立していますので20万円程度あれば中古車市場から同等のものが購入できますから、賠償額は20万円でいいのです。
しかし、家の場合は200万円の中古家屋があってもその土地に定着しているのであり、簡単に移動できないので損害額の算定には極めて困難な問題が生じます。
裁判長はどのように対処したらよいか困惑しているようでした。
私は理を説いた詳細な準備書面を提出し、裁判長に「因果関係は認めます。しかし問題は損害額と寄与度(被告らの行為が原告の損害に及ぼしている度合い)だと思います。寄与度の立証には相当額の費用がかかりますので、原告のためにも和解で解決することが望ましいと思います。」と言い、「 A、B、Cそれぞれ 200万円、計600万円。」の和解案を提示しました。
Dは4500万円を請求していましたのでその説得には相当の時間がかかったようですが、裁判長は私の書面をもとに和解に応じることがDの利益だと強く説得したようであり、和解期日を数回重ねた結果Dは私の和解案に応じることになりました。
ところが設計したCは自分には責任はないと言い張って 200万円の支払いに応じないのです。
私は裁判長に「ABとCの弁論の分離して、ABのみ和解を成立させてほしい。 Cには大きな責任があると思うので引き続いて裁判を続けてもらいたい。Dが私に委任状を書いてくれるのであれば、私は弁護士費用なしで、私の弁護士としての全ての能力を投じてCに対する請求をしてもよい。」と言ったところ、裁判長は「弁論を分離せず、なんとかCについての和解を勧めたい。」と言われました。
裁判所が強く和解を勧めるのはこの事件の判決を書くのが大変だからであり、ABと和解をしてもCとの審理が続行するのであれば判決を書かざるを得ず、裁判所にとって大変であることは変わりないのです。
私は裁判長のこの言葉を了承し、その後も和解期日を重ねた結果、Cも200万円を支払うことで和解が成立し、結局は私の最初の案通りで解決したのです。
この事件の裁判長は翌年4月に転勤しましたが、印刷された転勤の挨拶状に手書きで「お世話になりました。」と書いてありました。