「遠方に住んでおり、相続した土地の草刈りや樹木の伐採などが手間になっている」
「土地の固定資産税や維持費の負担をなくしたい」
このようなお悩みをお持ちの方には、相続土地国庫帰属制度の利用がおすすめです。
本制度を利用して国に土地を引き取ってもらえれば、土地の管理義務から恒久的に解放され、維持管理コストの発生も防げるため、子どもや孫などの次の世代へ不要な経済的・精神的負担を残さずに済みます。
この記事では、相続土地国庫帰属制度の要件、却下事由・不承認事由、負担金や審査手数料、申請の流れ、相続放棄との違い、弁護士に相談するメリットについて解説します。
不要な相続土地の解決に向けて、まずは制度の全体像を把握することから始めましょう。

相続土地国庫帰属制度は、相続や遺贈によって土地を取得した人が、一定の要件を満たした場合に、その土地の所有権を手放して国庫に帰属させることができる制度です。
根拠となるのは、相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(令和3年法律第25号。以下「相続土地国庫帰属法」)です。
この記事では、条文の該当箇所も示しながら制度の中身を解説していきます。
この制度がつくられた背景には、相続をきっかけに土地の所有者が分からなくなってしまう「所有者不明土地」の増加という社会問題があります。
遠方に住んでいて利用する予定のない土地や、管理の負担だけが重くのしかかる土地であっても、これまでは相続した以上、手放す手段がほとんどありませんでした。
その結果、登記や管理がされないまま放置される土地が増え、公共事業や取引の妨げになるケースが各地で問題となっていました。
そこで、土地を手放したい相続人に一定の要件のもとで国庫への帰属を認めることで、所有者不明土地の発生を予防する狙いでこの制度が創設されました。
制度の対象になるのは、相続または相続人に対する遺贈によって取得した土地の所有権に限られます。
農地や森林であっても、後述する却下事由・不承認事由に当てはまらない限り、制度の対象になります。
通常、農地を第三者へ売却したり譲渡したりする場合には、農業委員会などによる農地法上の許可が必要になりますが、この制度による国庫帰属についてはそうした許可を得る必要がありません。
田畑や山林を相続したものの、跡を継ぐ人がおらず持て余しているという相談は多いため、この点は制度を検討するうえで押さえておきたいポイントです。
ただし、すでに相続した土地であることが前提になるため、これから相続が発生する見込みの土地について、事前に申請しておくこともできません。

制度を利用するには、まず申請できる立場にあるかどうかを確認する必要があります。
ここでは、申請権者の要件と、共有名義の土地を相続した場合の扱いについて説明します。
相続土地国庫帰属法第2条第1項は、相続等によりその土地の所有権の全部または一部を取得した者が、法務大臣に対して国庫への帰属の承認を申請できると定めています。
つまり、亡くなった方から相続によって土地を受け継いだ人、または相続人に対する遺贈によって土地を受け継いだ人であれば、申請の資格があります。
一方で、相続人以外の第三者への遺贈や、生前贈与によって土地を得た人は対象外です。
土地が複数人の共有名義になっている場合、共有者のうち一人だけが自分の持分について申請することはできません。
共有名義の土地を制度の対象にするには、共有者全員が共同で申請する必要があります。
ただし、共有者の一部が相続以外の原因(売買など)でその土地の持分を取得していた場合であっても、共有者全員で申請すれば制度を利用できるとされています。
共有者間で足並みが揃わないと申請自体を進められないため、早い段階で他の共有者と方針をすり合わせておくことが重要です。

却下事由とは、そもそも申請書を提出しても受け付けてもらえない土地の類型です。
法務省によると、次の5つのいずれかに該当する土地は、同法第2条第3項に基づき申請そのものができません。
建物がある土地 |
更地でなければ申請不可 |
|---|---|
担保権・使用収益権が設定された土地 |
抵当権や賃借権などが登記されている土地 |
他人の利用が予定されている土地 |
通路や用水路として現に使われている土地など |
土壌汚染がある土地 |
特定有害物質による汚染がある土地 |
境界が明らかでない土地・所有権に争いがある土地 |
境界未確定または所有権の帰属に争いのある土地 |
それぞれの内容を詳しく見ていきます。
土地の上に建物が建っている場合、その土地は申請できません。
建物が老朽化して使われていない、いわゆる空き家が建ったままの土地であっても同様です。
制度を利用したい場合は、あらかじめ建物を解体して更地にしておく必要があります。
解体費用がかかる点は、この制度を検討するうえで見落とされがちな負担なので注意が必要です。
抵当権や質権などの担保権、地上権や賃借権といった使用収益権が登記されている土地も申請できません。
相続した土地に亡くなった方が生前に設定した抵当権が残っている場合は、まず抹消登記を済ませる必要があります。
金融機関との調整が必要になることもあるため、早めに専門家へ相談しておくと手続きがスムーズに進みやすくなります。
通路として近隣住民が利用している土地や、水路・ため池として使われている土地のように、自分以外の人の利用が予定されている土地も対象外です。
一見使われていないように見えても、実際には近隣の生活インフラの一部になっているケースがあるため、事前の現況確認が欠かせません。
土壌汚染対策法に定める特定有害物質によって基準値を超えて汚染されている土地も、却下事由に当たります。
過去に工場や倉庫として使われていた土地では、汚染の有無を調査してから申請の可否を判断する必要があります。
隣地との境界が確定していない土地や、そもそも所有権の存否・範囲について相続人間や近隣所有者との間で争いがある土地も却下されます。

不承認事由とは、申請自体は受け付けられても、法務局による審査の結果、承認が得られない土地の類型です。
却下事由が書類上ただちに判断できるのに対し、不承認事由は実地調査を踏まえた個別の審査で判断される点が特徴です。
崖がある土地 |
勾配30度以上かつ高さ5メートル以上で、管理に過分な費用・労力がかかるもの |
|---|---|
管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地 |
放置車両や樹木、廃屋の残骸など |
除去すべき有体物が地下にある土地 |
産業廃棄物や地中埋設物など |
隣接土地の所有者等との争訟が必要な土地 |
通行権をめぐる紛争などがある土地 |
その他、通常の管理・処分に過分な費用・労力がかかる土地 |
政令で定める基準に該当するもの |
勾配が30度以上、かつ高さが5メートル以上ある崖が土地に含まれていて、その崖の管理に過分な費用や労力がかかると判断される場合は不承認となります。
山林や傾斜地を相続した場合、この基準に該当するかどうかは事前に確認しておきたいポイントです。
放置された車両や不法投棄物、危険な老朽化した工作物などが地上に存在し、それらが土地の管理や処分の妨げになる場合も不承認事由に当たります。
樹木についても、通常の管理を大きく超える伐採や整地が必要になるほど繁茂している場合は対象になり得ます。
地下に産業廃棄物やコンクリートの基礎、古い水道管などが埋まっていて、その除去をしなければ通常の管理又は処分をすることができない場合には、不承認となります。
過去に建物が建っていた土地では、解体時に地中埋設物が残されたままになっていないか確認しておくとよいでしょう。
通行権の有無や土地の利用をめぐって、隣接地の所有者との間で訴訟などの法的手続きを経なければ管理・処分ができない土地も不承認事由とされます。
このケースでは、国庫帰属の申請を進める前に、隣地所有者との話し合いや紛争解決を先に進めておく必要があります。
上記のいずれにも当てはまらなくても、通常の管理又は処分をすることができない土地として政令で定める要件に該当する場合には、不承認とされます。
個別の事情によって判断が分かれる部分のため、該当するかどうか迷う場合は、法務局への事前相談や弁護士への相談を活用するとよいでしょう。

却下事由・不承認事由のいずれにも当てはまらないことを確認できたら、実際の申請手続きに進みます。
ここでは、法務局への事前相談から国庫帰属が完了するまでの流れを、手順ごとに解説します。
法務省によると、申請を検討している段階から、土地の所在地を管轄する法務局・地方法務局の本局で事前相談を受けることができます。
相談は事前予約制で、対面・電話に加えてウェブ相談も利用でき、1人1日1回30分の枠が設けられています。
自分の土地が却下事由・不承認事由に該当しそうかどうかを、申請前に確認できる機会として活用できます。
事前相談を踏まえて申請の見通しが立ったら、承認申請書に必要事項を記載し、法務大臣(実務上は土地を管轄する法務局・地方法務局)に提出します。
同法第3条により、申請書には土地の所在・地番・地目・面積などのほか、境界を示す図面や写真の添付が必要とされています。
必要書類が多く、測量図の作成が必要になる場合もあるため、準備には一定の時間を見込んでおく必要があります。
申請の際には、土地一筆当たり14,000円の審査手数料を収入印紙で納付します。
法務省によると、この手数料は申請を取り下げた場合や、却下・不承認となった場合であっても返還されません。
申請前に要件を十分確認しておくことが、費用面での無駄を避けることにつながります。
申請後は、まず提出書類による書面審査が行われます。
そのうえで、同法第6条に基づき、法務局の担当者が現地に赴いて事実の調査を行います。
実地調査では、崖の勾配や地上の工作物の有無、境界の状況などが実際に確認されます。
書面上は問題がなさそうに見えても、実地調査で不承認事由に当たる状態が見つかることもあるため、事前に現況を把握しておくことが望ましいです。
審査の結果、承認または不承認の判断が確定すると、同法第9条に基づき申請者に通知されます。
不承認となった場合、審査手数料は返還されませんが、負担金の納付は不要です。
不承認の判断に納得できない場合は、行政不服審査や取消訴訟によって争う余地も残されています。
承認の通知を受けたら、通知が到達した翌日から30日以内に負担金を納付する必要があります。
同法第11条により、負担金の納付が完了した時点で、土地の所有権は国庫に帰属します。
反対に、期限内に納付しないと承認の効力自体が失われてしまうため、納付期限の管理には注意が必要です。
法務省によると、申請から承認・不承認の判断が出るまでの標準処理期間は8か月とされています。
土地の状況が複雑であったり、追加の資料提出を求められたりすると、さらに時間がかかることもあります。
急いで手放したい事情がある場合は、申請時期を早めに検討しておくとよいでしょう。
偽りその他不正の手段によって承認を受けたことが後から判明した場合、法務大臣はその承認を取り消すことができます。
また、承認の時点で却下事由・不承認事由に当たる事情があることを知りながら告げずに承認を受け、それによって国に損害が生じた場合には、国に対して損害賠償責任を負います(同法第14条)。
申請書類は、土地の状況を正確に反映して作成する必要があります。

制度を利用する際にかかる費用は、審査手数料と負担金の2つに分かれます。
審査手数料は、前述のとおり土地一筆当たり14,000円で、複数の土地をまとめて申請する場合は筆数に応じて加算されます。
ここでは、負担金の金額や算定方法を確認しておきましょう。
承認された場合に納める負担金は、法務省によると、国が管理に要する10年分の標準的な費用を考慮して算定されます。
森林を除き、宅地・田畑・その他の土地は、面積にかかわらず原則として20万円です。
一方で、市街化区域や用途地域内の宅地、農用地区域内などの一部の農地、森林については、面積に応じて金額が変動する算定式が用いられます。
自分の土地がどの区分に当たり、負担金がいくらになるかは、法務省が公開している負担金額の自動計算シートで事前に試算できます。
隣接する2筆以上の土地について、同じ種目であれば、まとめて一つの土地とみなして負担金を算定するよう申し出ることができます。
法務省によると、この特例が認められると、複数筆であっても一筆分の負担金で国庫に帰属させることが可能になります。
ただし、種目が異なる土地同士を組み合わせることはできません。
隣接する土地を複数相続している場合は、この特例を使えないか確認しておくと費用を抑えられる可能性があります。
.jpg)
不要な土地を手放す方法としては、相続放棄も選択肢に挙がります。
ただし、相続土地国庫帰属制度と相続放棄は、仕組みも使えるタイミングも異なります。
それぞれの違いを理解したうえで、自分の状況に合った方法を選ぶことが大切です。
相続放棄をすると、不要な土地だけでなく、預貯金や有価証券などプラスの財産も含めて、すべての遺産を相続できなくなります。
相続土地国庫帰属制度であれば、他の財産は相続しつつ、不要な土地だけを手放すことができる点が大きな違いです。
相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所へ申述する必要があります。
この期間を過ぎると、原則として相続放棄はできなくなり、他の相続人との遺産分割協議など別の方法を検討することになります。
これに対して相続土地国庫帰属制度は、既に相続によって土地を取得した後でも申請できる点で、期間の制約が異なります。
相続土地国庫帰属制度の申請が不承認となった場合でも、その時点で既に相続を承認したものとして扱われている限り、あらためて相続放棄を選ぶことは原則としてできません。
どちらの制度を使うかは、相続開始から早い段階で見極めておく必要があります。

ここからは、ココナラ法律相談の「おしえて!法律Q&A」に寄せられた、相続土地国庫帰属制度に関する実際のお悩みと、弁護士による回答の概要をご紹介します。
相続土地国庫帰属制度については、先祖名義の土地の処分方法と国庫帰属・清算人の費用比較と相続放棄の期限に関する相談が寄せられています。
|
【質問】 祖父の代から続く先祖名義の土地について、親が30年以上にわたり毎年固定資産税(年間5,000円程度)を払い続けています。土地は利用できず売却も難しい状態で、名義変更や譲渡についても相続人が多数にわたり実現が難しいと言われました。このまま放置すると、税負担が次の世代にも引き継がれてしまうのではないかと心配しています。何か手放す方法はありますでしょうか。 |
|
【回答】 相続人が多数にわたる場合は、まず遺産分割調停によって名義を一本化したうえで売却を検討する方法が考えられます。隣接する土地が公有地であれば自治体への寄付を打診する、空き地バンクに登録する、隣地の所有者に取得を打診するといった方法も選択肢になります。 |
|
【質問】 利益を生まず固定資産税を払うだけの地方の山林などを、40か所ほど相続しました。相続土地国庫帰属制度を使うとかなりの費用がかかるため、自分の財産は遺言で相続人に遺贈し、相続人には相続放棄をしてもらうことで、制度を使わずに土地を手放せないかと考えています。相続財産清算人を選任してもらうほうが、制度を使うよりも費用を抑えられるのではないでしょうか。 |
|
【回答】 相続人がいない相続財産は、相続財産清算人が選任されるまで管理する人がいない状態となり、選任された清算人が債務の支払いなどの清算を行ったうえで、残った財産を国庫に帰属させる手続きを行います。相続放棄をする場合は、放棄した人の財産の保存について定めた民法940条第1項にも留意する必要があります。相続土地国庫帰属制度は、土地の現状によって図面の提出や雑草・岩の除去、段差の解消などの措置、法務局などとの折衝が必要になることがあり、費用や労力は変動します。一方、相続財産清算人の選任を申し立てる際には裁判所への予納金の納付が必要で、金額は裁判所によって異なるため、事前に確認されるとよいでしょう。 |
参考:不動産の処分について
|
【質問】 祖父名義のまま名義変更ができていない土地があり、祖父の後妻や父もすでに亡くなっています。後妻側の親族に協力してもらい、この土地を私の名義にしたいと考えていますが、その場合に相続放棄はできるのでしょうか。 |
|
【回答】 まず、誰の相続について誰が相続放棄をするのかを明確にする必要があります。相続放棄は、対象となる相続の開始を知ったときから3か月以内に家庭裁判所へ申し立てる必要があり、期間を過ぎている場合は相続放棄ができません。その場合は遺産分割協議を行うことになり、協議の中でその土地を取得しないという内容で合意することも可能と考えられます。 |
参考:祖父名義の土地を相続放棄する方法と手続きについて教えてください

ここまで見てきたとおり、相続土地国庫帰属制度は要件が細かく、却下事由・不承認事由に該当するかどうかの判断も専門的です。
自己判断で進めてしまうと、審査手数料を無駄にしてしまったり、本来使えるはずの他の選択肢を見逃してしまったりする可能性があります。
弁護士に相談することで、次のようなメリットがあります。
崖の勾配や地下埋設物の有無、境界の状況など、不承認事由に該当するかどうかの判断には専門的な知見が必要です。
弁護士に相談すれば、現地の状況や登記簿・公図の内容をもとに、申請前の時点で承認の見込みをある程度見立ててもらえます。
見込みが低い場合は、無理に申請を進めるのではなく、他の方法を検討する判断材料にもなります。
承認申請には、境界を示す図面や写真など専門的な書類の準備が必要です。
また、共有名義の土地であれば共有者全員の同意取り付け、担保権が残っている土地であれば金融機関との抹消手続きの調整など、当事者だけでは進めにくい作業も発生します。
弁護士に依頼すれば、これらの書類収集や関係者間の調整を任せることができ、手続きの負担を減らせます。
不要な土地を手放す方法は、相続土地国庫帰属制度だけではありません。
相続放棄、近隣住民や自治体への譲渡、空き地バンクの活用など、状況に応じて複数の選択肢が考えられます。
弁護士に相談すれば、それぞれの費用や期間、他の相続財産への影響を踏まえたうえで、自分の状況に最も適した方法を一緒に検討してもらえます。
不承認事由の一つである「隣接する土地の所有者等との争訟が必要な土地」に当てはまる場合、国庫帰属の前提として紛争そのものを解決しておく必要があります。
境界をめぐるトラブルや通行権に関する交渉は、当事者同士で進めると感情的な対立に発展しやすい分野です。
弁護士が窓口になって交渉や訴訟対応を行うことで、円滑に解決へ進められる可能性が高まります。

相続土地国庫帰属制度は、要件の該当性や必要書類の判断に専門知識が求められる手続きです。
特に、境界や担保権の整理、共有者間の調整、隣接地所有者との交渉が絡む場合は、法律の専門家である弁護士のサポートを受けることで、手続きをスムーズに進めやすくなります。
ココナラ法律相談では、相続分野の実績を持つ弁護士を、対応地域や相談内容から検索して探すことができます。
プロフィールや解決実績を比較しながら、自分の状況に合った弁護士を見つけられる点も特徴です。
まずは掲示板の無料相談やメッセージ相談から、気軽に悩みを打ち明けてみてはいかがでしょうか。
不要な相続土地の悩みを一人で抱え込まず、専門家の力を借りて解決への一歩を踏み出しましょう。