親族内承継の進め方|自社株の引き継ぎ・税金対策や親族間のトラブル対策を解説

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親族内承継の進め方|自社株の引き継ぎ・税金対策や親族間のトラブル対策を解説

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佐々木 秀綱 弁護士(第一東京)

東京都 / 港区

TEMPLE法律事務所

長年育ててきた会社を退き、次の世代に事業を譲る時期が近づいていると感じていませんか。

親族内承継を検討しているものの、「自社株を渡す際に多額の贈与税がかかるのではないか」「後継者以外の親族から遺産の取り分について不満が出るかもしれない」という不安を抱える経営者は少なくありません。

親族内承継においては、予期せぬ税負担による資金繰りの悪化や、後継者への資産集中に起因する親族間の深刻な遺産紛争といったリスクが懸念されるため、慎重に進める必要があります。

本記事は、親族内承継を安全に進めるための具体的な方法や、自社株の引き継ぎ方、税金対策から法務リスクの回避策までを網羅的に解説する内容となっています。

この記事を読むことで、事業承継に向けた明確なロードマップが描けるようになり、会社と親族を守るために弁護士へ相談すべきタイミングがわかるでしょう。

親族内承継で引き継ぐべき人・資産・知的資産

事業承継は単なる代表者の交代手続きではなく、会社を構成する要素を総合的に次世代へ引き継ぐ取り組みです。

親族内承継においては、以下の3つの要素をバランスよく、かつ計画的に引き継ぐことが極めて重要となります。

人(経営権)の引き継ぎ:代表権の移譲と後継者教育

まずは、会社法に基づく代表取締役としての地位および代表権の移譲です。

株主総会や取締役会の決議を経て、登記申請を行うことで法的な交代が完了します。

代表者の交代は、対外的には取引先や金融機関との信頼関係の再構築を意味し、社内的には従業員の心理的な動揺を抑え、新たなリーダーシップへの支持を取り付けるプロセスでもあります。

そのため、経営者としてのリーダーシップや財務の知識、業界特有の商慣習を後継者に身につけさせる後継者教育が不可欠となります。

資産(財産)の引き継ぎ:自社株・事業用資産の移転

会社の支配権を法的に確保するためには、基本的には、株主総会での議決権の過半数以上を後継者に引き継がせる必要があります。

特に、定款変更や事業譲渡、会社の解散といった重要事項を決定する特別決議を単独で可決させるためには、発行済株式総数の3分の2以上の議決権を後継者に集中させることが実務上のセオリーとされています。

また、会社が事業活動で使用している土地、建物、機械設備などが経営者個人の名義になっているケースも多く見られますが、これら事業用資産も適切なタイミングで後継者や会社名義へと移転しなければなりません。

もし個人所有のまま経営者が亡くなり、相続によって複数の親族に事業用資産が分散してしまうと、将来的に会社がその資産を利用できなくなったり、賃料交渉や立ち退き要求などのトラブルに発展したりするリスクがあります。

知的資産の引き継ぎ:経営理念・ノウハウ・顧客や従業員との関係性

決算書には載らない、目に見えない会社の強みである知的資産の引き継ぎも欠かせません。

知的資産とは、人材、技術、組織力、顧客とのネットワークなど、財務諸表には表れないものの、企業の価値や収益力の源泉となる資産を指します。 具体的には以下のような要素が含まれます。

  • 経営理念や企業文化:歴代の経営者が大切にしてきた想いや、組織の根底に流れる行動規範
  • 従業員の技術力や独自のノウハウ:マニュアル化が難しい熟練工の勘や、効率的な業務フロー
  • 取引先や優良顧客との信頼関係:経営者個人の人脈にとどまらない、組織間の長期的なパートナーシップ
  • 従業員との良好な関係性:福利厚生だけでなく、風通しの良い職場環境や評価制度

これらの資産は、承継後に後継者が事業を継続し、さらに発展させていくための「競争力の源泉」となります。

これらを後継者が正確に理解し、自身の経営に活かせるよう、社内マニュアルの整備や「事業価値評価報告書」といった文書の形で明文化・可視化しておくことが強く推奨されます。

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親族内承継を進めるメリット・デメリット

親族内承継には、外部の第三者へ譲渡するM&Aや、従業員への承継にはない特有の強みが存在します。

一方で、血縁関係があるからこそ生じるリスクもあります。

メリットを最大限に活かしつつ、デメリットへの対策を講じることが成功の鍵といえます。

メリット

デメリット

  • 従業員や取引先、金融機関からの理解が得やすい
  • 後継者の早期育成が可能になる
  • 所有(株式)と経営(代表権)の分離を防ぎやすい
  • 親族間での相続トラブル(遺留分問題)に発展するリスクがある
  • 後継者に資金調達や個人保証の重圧がかかる
  • 適任の親族がいない場合、経営悪化のリスクがある

親族内承継のメリット

親族内承継を選択することの主なメリットは以下の3点に集約されます。

従業員や取引先、金融機関からの理解が得やすい

古くから日本の企業社会では、家業を親族が継ぐことが一般的な事業継続の形として広く受け入れられてきました。

このような文化的背景があるため、経営者が交代しても「創業家が引き続き責任を持つ」という姿勢を示すことができ、組織のアイデンティティを保ちやすいという特徴があります。

そのため、従業員の雇用不安を和らげやすく、長年培ってきた社内の団結力を維持しやすくなります。また、取引先や融資を受けている金融機関からも、事業方針の急激な変化が少ないと見なされ、心理的な納得感や継続的な信頼関係を得やすい傾向があります。

後継者の早期育成が可能になる

経営者の子どもであれば、若いうちから親の働く姿を間近で見て、会社の理念や風土を肌で感じながら、「経営者のマインド」を醸成することができます。 

これは第三者への承継では得られない、親族ならではの強力なアドバンテージです。

また、早い段階から後継者候補として意識させ、20代や30代のうちから他社での修行に出したり、社内の重要ポストに就かせて経験を積ませたりと、長期的な視点に立った計画的・段階的な育成が可能です。 

所有(株式)と経営(代表権)の分離を防ぎやすい

親族内承継では、経営者が保有する自社株を、相続や贈与を通じて後継者一人に集中的に引き継がせることが比較的容易です。

中小企業において、議決権を持つ株式が分散することは経営の停滞を招く大きな要因となります。

株式の分散を防ぎ、「所有」と「経営」の一致を維持することで、後継者が迅速かつ強力な意思決定を行える体制を構築できます。

これにより、環境の変化が激しい現代において、機動的な経営判断が可能になります。

親族内承継のデメリット

一方で、親族内承継には以下のようなデメリットやリスクも存在するため、事前の法務対策が必須となります。

親族間での相続トラブル(遺留分問題)に発展するリスクがある

経営の安定化のために自社株や事業用資産を後継者一人に集中させると、他の親族の相続分が必然的に減少します。

その結果、民法で保障された遺留分をめぐって、親族間で深刻な相続争いに発展するリスクが跳ね上がります。

特に、後継者に自社株をすべて集中させた結果、他の親族の遺留分を侵害してしまうと、遺留分侵害額請求を起こされるリスクがあり、請求を受けた場合は原則として現金で一括精算しなければなりません。

後継者に資金調達や個人保証の重圧がかかる

自社株を適正価格で買い取るための現金や、相続や贈与に伴う多額の税金が後継者個人の負担となるケースが少なくありません。

また、現経営者が金融機関と結んでいる経営者保証を引き継がなければならない場合、個人の生活や住宅ローンにまで影響が及ぶ大きなプレッシャーとなります。

この重圧を軽減するためには、政府の「経営者保証に関するガイドライン」を活用し、後継者に個人保証を引き継がせずに承継できるよう、金融機関と事前に丁寧に交渉することが重要です。

後継者に能力がないと、経営悪化のリスクがある

血縁者であるという理由だけで、能力や意欲の伴わない親族を後継者に据えると、有能な従業員の離反や業績の悪化を招くおそれがあります。

先述の通り、経営者としての適性を客観的に見極め、周囲が納得するだけの十分な教育と実績作りを行うことが不可欠です。

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親族内承継に向けた具体的な進め方

親族内承継は、思い立ってすぐに完了するような簡易な手続きではありません。

一般的に5年〜10年程度の準備期間を見据え、以下のような流れで計画的に進めることが実務上推奨されます。

全体の流れを把握できるよう、まずは各ステップの概要をご紹介します。

後継者との意思確認と中長期的な育成

まずは、後継者候補である親族に対し、本当に会社を継ぐ意思と経営者としての覚悟があるかを明確に確認します。

経営状況が厳しい局面でもリーダーシップを発揮し、従業員やその家族を守り抜く責任感があるかを、時間をかけて対話を通じて見極めることが重要です。

合意が得られたら、営業や財務など社内外のあらゆる業務を経験させ、経営に必要な知識や人脈を構築するための育成期間を設けるのが理想的です。

具体的には、社内の主要部門をローテーションで経験させて実務に精通させるほか、他社での修行を通じて客観的な経営視点を養わせるなどの計画的な育成が求められます。

事業承継に5年〜10年程度の準備期間が必要とされるのは、こうした「目に見えない経営力」の承継に時間がかかるためです。

自社株・事業用資産・負債の現状把握と課題の洗い出し

親族内承継を成功させるためには、会社の現状を多角的に、かつ正確に把握することが不可欠です。

弁護士等の専門家の協力を得ながら、以下の項目を中心に詳細なリストアップと評価を行い、潜在的なリスクを洗い出します。

自社株の正確な評価額の算定

類似業種比準方式、純資産価額方式、あるいはそれらを併用した方式を用いて、現時点での一株あたりの価値を算出します。

これにより、将来的な贈与税・相続税の負担を具体的にシミュレーションすることが可能になります。

事業用資産の所在確認

会社名義だけでなく、経営者個人名義で保有している工場敷地や事務所ビル、店舗などの不動産をすべて特定します。

これらが相続によって分散すると、将来の事業継続に支障をきたすため、早期の整理が必要です。

債務および簿外債務の徹底調査

銀行借入金などの有利子負債に加え、未払残業代、退職給付引当金の不足、係争中の訴訟リスクといった「簿外債務」の有無についても慎重な確認が求められます。

経営者保証(連帯保証)の現状把握

金融機関との間で現経営者が結んでいる個人保証の有無とその範囲、極度額を明確にします。

これは後継者の将来的な精神的・経済的負担に直結する極めて重要な確認事項です。

これらの現状を客観的なデータとして可視化することで、自社株の移転に伴う具体的な税金コストが判明するだけでなく、遺留分問題などの法務上の課題も浮き彫りになり、実効性の高い承継計画の策定へとつなげることができます。

事業承継計画の作成とスケジュールの決定

現状の課題が明確になったら、いつ、誰に、何を、どのように引き継ぐかを文書化した事業承継計画書を策定します。

この計画書は、経営を次世代へ円滑に引き継ぐためのロードマップであり、後継者や親族、役員、従業員、さらには金融機関といったステークホルダーからの信頼を得るための重要な根拠となります。

計画の策定にあたっては、株式の移転時期、代表権交代のタイミング、経営者の退任後の処遇などを、時系列に沿った具体的なスケジュールへと落とし込んでいきます。

また、引退する経営者の生活基盤を支えるための役員退職金の支払い時期や、勇退後の経営者の関わり方(相談役として必要に応じて経営指導を行うなど)も明記しておくことで、承継後の混乱を最小限に抑えることが可能です。

後継者以外の親族・役員・従業員・取引先への周知

承継計画が固まったら、後継者以外の親族、役員、従業員、そして取引先や金融機関といったステークホルダーへ適切なタイミングで丁寧な周知を行います。

特に、後継者以外の親族に対しては、なぜそのように会社の財産を偏らせて分けるのか、経営者の想いと事情を時間をかけて説明し、将来のトラブルの芽を摘んでおくことが重要です。

自社株や事業用資産を後継者一人に集中させることは、経営の安定化のために必要不可欠ですが、これは他の親族の相続分を減少させることにもつながります。

もし他の親族の遺留分を侵害してしまった場合、遺留分侵害額請求を起こされるリスクがあり、請求を受けた際は原則として現金で一括精算しなければなりません。

このような感情的・法的な対立を避けるためにも、遺言書の作成や、遺留分に関する民法の特例(除外合意・固定合意)の活用を検討しながら、親族間の理解を深めるための丁寧な対話が求められます。

代表権の交代と経営者保証(個人保証)の解除

計画に沿って株主総会および取締役会を開催し、最終的な経営権のバトンタッチを実施します。

この際、現経営者の経営者保証を外すための手続きも金融機関と並行して進めることが欠かせません。

政府が策定した「経営者保証に関するガイドライン」を活用することで、後継者に個人保証を引き継がせずに承継できる可能性があります。

具体的には、以下の3つの要件を満たすことが求められます。

  • 法人と個人(経営者)の資産が明確に分離されていること
  • 法人単独で返済可能な財務基盤が確保されていること
  • 金融機関に対し、適時適切に財務情報の開示を行っていること

これらの要件を満たしているか事前に確認し、金融機関と丁寧に交渉を重ねることが重要です。

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自社株の移転方法|後継者の資金負担は?

親族内承継において最大のハードルとなるのが、経済的価値を持つ自社株の移転手続きです。

主に生前贈与、株式譲渡、相続の3つの方法があり、自社の財務状況に合わせてこれらを組み合わせることも検討されます。

生前贈与による引き継ぎ(暦年贈与・相続時精算課税制度)

経営者の生前に、無償で自社株を後継者に譲り渡す方法です。

引き継ぐタイミングを経営者自身の意思でコントロールできるため、計画的な承継に向いています。

暦年贈与

年間110万円の基礎控除枠を利用し、税務署への申告なしで毎年少しずつ贈与する。

時間をかければ非課税で株を移転できるが、株価が高い企業では数十年の長期間が必要になる。

相続時精算課税制度

累計2,500万円(※2024年以降の改正内容で年間110万円の基礎控除も創設)までの特別控除枠を利用する。

一度に多額の自社株を移転できるが、最終的に相続発生時に相続財産として合算され相続税の対象となる。

株式売買による引き継ぎと後継者の資金調達

後継者が現経営者から自社株を適切な価格で買い取る有償の手法です。

現経営者にとっては、長年築き上げてきた自社株を現金化できるため、勇退後の生活資金や老後資金を確実に確保できるという大きなメリットがあります。

ただし、売却によって生じた譲渡益に対しては、所得税および復興特別所得税、住民税を合わせて約20.315%の税金が課せられる点に注意が必要です。

一方で、後継者側にとっては、自社の評価額に見合った多額の買収資金を自己資金で用意しなければならないことが最大の懸念点となります。

資金調達のためには、後継者の役員報酬を増額して手元資金を蓄える、あるいは金融機関から融資を受けるといった方法が検討されますが、いずれも会社のキャッシュフローや後継者の将来的な負担に直結します。

そのため、数年単位の長期的なスパンで緻密な資金調達計画を策定することが必須となります。 

また、将来的な利子負担や返済計画、経営者保証の引き継ぎ可否についても、事前に専門家を交えて慎重に検討を進める必要があります。

遺言による引き継ぎと生前対策の重要性

経営者が亡くなった際に、遺産分割の手続きを通じて自社株を後継者に引き継がせる方法です。

この方法の最大の懸念は、経営者が生きている間に株式移転の資金負担は発生しない一方で、亡くなったという予期せぬタイミングで多額の相続税が発生する重大なリスクがある点です。

もし遺言書がない場合、自社株は遺産分割協議の対象となり、法定相続分通りに分割されて会社の支配権が分散してしまう恐れがあります。

安定した経営権を次世代に渡すためには、生前に後継者を指定し、確実に株式を集中させる内容の遺言書を作成することが、実務上の絶対条件となります。

さらに、特定の相続人に資産を集中させることで他の親族の遺留分を侵害し、親族間での深刻な相続争い(遺留分侵害額請求)に発展するリスクも考慮しなければなりません。

そのため、単に遺言書を用意するだけでなく、生命保険の活用による納税資金の確保や代償金の準備といった、包括的な生前対策を早期に開始することが極めて重要です。

親族内承継における税金対策と自社株の評価引き下げ

自社株の評価額が高い企業ほど、贈与税や相続税の負担は経営を揺るがすほど重くなります。

税負担を合法的に軽減し、円滑な承継を実現するための代表的な対策を紹介します。

事業承継税制の活用と適用要件

事業承継税制は、一定の要件を満たすことで、後継者が取得した自社株にかかる贈与税や相続税の納税が猶予され、最終的には免除される非常に強力な制度です。

この制度には「一般措置」と「特例措置」の2種類がありますが、特に注目すべきは2027年12月31日までに贈与や相続を行う場合を対象とした特例措置です。

この特例を活用すれば、対象株式の全額に対する納税が100%猶予されるため、後継者の代替わりに伴うキャッシュフローの悪化を抑えることができます。

利用を希望する場合は、検討から計画策定、認定申請までのプロセスを考慮し、早急に専門家を交えた対応を進めることをおすすめします。

また、制度の利用中も「5年間の雇用維持(平均8割以上)」などの継続要件が設定されており、要件を満たせなくなった場合には猶予された税金を利子税とともに納付しなければならないリスクも存在します。

制度のメリットだけでなく、将来的な事業見通しを踏まえた慎重な判断が必要です。

役員退職金の支給による自社株の評価引き下げ

現経営者が代表取締役を退任する際、会社から役員退職金を支給する方法も税金対策として有効です。

会社から多額の現金が退職金として支払われると、その分だけ帳簿上の純資産(会社の財産)が減少します。

自社株の評価額は会社の純資産額をベースに計算されるため、純資産が減ることで結果的に自社株の評価額も一時的に引き下げられるという仕組みです。

適正な額の退職金であれば法人税法上の損金に算入できるメリットもあり、法人の税負担軽減にもつながります。

評価額が下がったタイミングを狙って生前贈与や株式譲渡を行えば、後継者の贈与税や譲渡資金の負担を大幅に圧縮できるでしょう。

ただし、役員退職金の額が不当に高額であると税務署に判断された場合、損金算入が認められないリスクがあるため、功績倍率法などを用いた適正な算定根拠に基づき、株主総会での決議を経て支給することが重要です。

また、勇退する経営者個人にとっても、退職所得は他の所得と分離して課税され、退職所得控除や2分の1課税などの優遇措置があるため、手元に残る資金を最大化できるという利点があります。

持株会社(ホールディングス)化による株式移転

持株会社(ホールディングス)を活用した組織再編スキームは、新たに設立した持株会社に事業会社の株式を買い取らせる、あるいは株式交換を行うことで、経営権を一本化する手法です。

この手法の最大の利点は、後継者が少額の自己資本で持株会社を設立し、その株式を取得するだけで、実質的に傘下となる事業会社の支配権を掌握できる点にあります。

通常、事業会社の株式を直接買い取るには莫大な資金が必要ですが、このスキームでは持株会社が金融機関から法人として資金を借り入れて買い取りを行うため、後継者個人が巨額の債務を負うリスクを回避できる高度な承継手法といえます。

さらに、持株会社化によって事業会社からの配当をグループ内の資金再配置や借入金の返済に充てることが可能になり、将来的な相続発生時にも自社株の評価上昇を抑制する効果が期待できるため、長期的な税務・財務戦略としても極めて有効です。

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親族内承継による相続トラブルを未然に防ぐ対策

親族内承継では、税金対策と併せて法的な相続トラブルの防止策が会社の存続を左右します。

民法第1042条では、配偶者や子どもなどの法定相続人に対し、最低限保障された遺産の取得割合である遺留分を定めています。

後継者に自社株や事業用資産をすべて集中させた結果、他の親族の遺留分を侵害してしまうと、民法第1046条に基づく遺留分侵害額請求を起こされるリスクがあります。

請求を受けた場合、原則として現金で一括精算しなければならず、後継者が会社から資金を吸い上げて対応した結果、最悪の場合は会社が倒産に追い込まれる可能性も否定できません。

遺留分を配慮した遺言書の作成

自社株を意図した通りに後継者へ確実に引き継がせ、経営の安定性を確保するための大前提となるのが、法的有効性を備えた遺言書の作成です。

事業承継の実務においては、公証人が関与し、紛失や改ざん、偽造を疑われるリスクがない公正証書遺言を利用することが強く推奨されます。

また、自社株や事業用資産を後継者に集中させる場合、他の相続人の遺留分(民法で保障された最低限の遺産取得割合)を侵害しないよう細心の注意を払う必要があります。

具体的には、遺言書の中で他の相続人に対して不動産や現金などの非事業用資産を適切に配分する内容を盛り込むことが検討されます。

さらに、相続発生時に後継者が他の親族から遺留分侵害額請求(民法第1046条)を受けた際、直ちに支払えるだけの現金を準備しておくことも不可欠です。

そのための有効な手段として、現経営者が後継者を保険金受取人とする生命保険に加入し、受け取った保険金を遺留分支払いのための代償金に充てるといった、事前の包括的な対策が求められます。

遺留分に関する民法の特例の活用

中小企業における経営承継円滑化法に基づき、遺留分に関する民法の特例(遺留分に関する民法特例制度)を活用することは、後継者への円滑な株式集中を実現し、将来の紛争を未然に防ぐための有効な手段となります。

この特例を適用するためには、後継者を含む推定相続人全員の書面による合意形成を前提とし、さらに経済産業大臣の確認、および家庭裁判所の許可という厳格な手続きを経る必要がありますが、認められれば以下の強力な法的措置を講じることが可能になります。

除外合意

現経営者から後継者に生前贈与された自社株について、遺留分を算定するための基礎財産から完全に除外する合意です。

これにより、他の親族から贈与株式に対する遺留分侵害額請求(民法第1046条)を受けるリスクを根本から解消し、後継者が安心して経営に専念できる環境を整えます。

固定合意

生前贈与された自社株の価額を、合意時点の評価額に固定する措置です。

承継後に後継者の経営努力によって企業の価値が高まり、将来的に株価が大幅に上昇したとしても、遺留分算定時の評価額は固定された金額のままとなるため、努力が他の相続人への支払額増加(遺留分増額)を招くという矛盾を回避できます。

これらの特例活用は、後継者への資産集中と他の親族への公平な配慮を両立させる高度な対策であり、弁護士等の専門家と連携して早期に親族間の合意形成を進めることが成功の鍵となります。

種類株式や家族信託を活用した経営権の確保

会社法に基づく種類株式を活用し、経営権の所在を細かくコントロールする手法もよく活用されています。

例えば、現経営者に株主総会の重要決議事項に対する拒否権を持たせる「拒否権付株式(通称:黄金株)」を発行すれば、代表権を譲った後も、会社の合併や定款変更といった重大な意思決定に対して最終的なコントロールを維持でき、後見的な立場で不測の事態に対処できます。

また、後継者以外の親族に平等な財産分配として株を渡さざるを得ない場合は、配当だけを受け取り議決権を持たない「無議決権株式」にすることで、後継者による迅速な経営判断を確保しつつ、経営への不当な干渉を排除できるでしょう。

さらに近年では、信託法に基づく民事信託(家族信託)を活用し、自社株の議決権行使の権利(管理権)だけを後継者に託し、財産としての価値や配当を受け取る権利(受益権)は現経営者に残すといった、家族の実情に合わせた柔軟な制度設計も普及しています。

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親族内承継の資金負担を軽減する公的支援・補助金

親族内承継には、新しい事業展開に向けた設備資金など様々なコストがかかります。

国や自治体による公的な支援制度を積極的に活用することで、初期の経済的負担をやわらげることが可能です。

事業承継・引継ぎ補助金の活用

中小企業庁が実施している「事業承継・引継ぎ補助金」は、事業承継をきっかけとした経営革新や、専門家による助言にかかる費用を支援する制度です。

本補助金を活用することで、承継にかかる経済的なハードルを下げ、円滑な代替わりを実現できる可能性が高まります。

本補助金では、以下のような幅広い経費が対象となる可能性があります。

  • 専門家謝金:弁護士、公認会計士、税理士などへ支払う相談報酬や仲介手数料。
  • 設備投資費:経営交代を契機とした新たな店舗、工場の増設や機械装置の導入。
  • 事業再構築・販路開拓費:ECサイトの構築、新商品開発、広告宣伝にかかる費用。
  • 店舗借入金、廃業関連費用:拠点の集約や、不採算事業の整理・廃業に伴う解体・処分費用。

補助金の公募期間、補助率、上限額、および採択のための要件は年度や申請時期(1次締切、2次締切など)によって細かく更新されます。

申請にあたっては、認定経営革新等支援機関による確認書が必要になるケースも多いため、公募要領を事前に精査し、ゆとりを持ったスケジュールで準備を行うことが不可欠です。

事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的サポート

全国に設置されている「事業承継・引継ぎ支援センター」は、経済産業省の委託を受けた公的機関であり、国が認定した専門相談員による事業承継の無料相談を広く受け付けています。

同センターでは、親族内承継の進め方に関するアドバイスだけでなく、後継者不在の企業に対するマッチング支援や、承継時の実務的な課題解決に向けた専門家の派遣なども行っています。

また、各地の商工会議所、商工会、および「よろず支援拠点」などの支援ネットワークも充実しており、親族内承継に関する初期段階の漠然とした悩み相談から、具体的な経営改善、さらには課題解決に適した弁護士や税理士といった専門家の紹介まで、多角的な公的サポートを受けることが可能です。

これらの窓口を積極的に活用することで、自社の現状を客観的に把握し、適切な承継の第一歩を踏み出すことができるでしょう。

親族内承継に関する法律相談Q&A

親族内承継においては、経営者が認知症や急病で意思疎通ができなくなったり、亡くなったりした場合に、さまざまな法律トラブルが発生する可能性があります。

ここでは、経営者の突然の病気による事業継続の可否、成年後見人への対応方法、会社名義の借金と連帯保証債務の相続に関するQ&Aをご紹介します。

ご家族の具体的な状況によって適切な対処法は異なるため、少しでも不安がある場合はお早めに弁護士にご相談ください。

意識不明となった父の事業継続に関するトラブル

【質問】

個人事業主の父が脳梗塞で倒れて意識不明となり、不動産事業の継続に悩んでいます。兄が「父と業務委託契約を結んで事業を継続する」と主張していますが、法定相続人全員が同意すれば法的に問題ないでしょうか。

【回答】

お父様が正常な意思表示をできない状態では、有効な業務委託契約を締結できません。ご家族であっても勝手にお父様を当事者とする契約を締結する代理権はないため、まずは現在の業務内容を把握したうえで、事業継続の手続きを弁護士にご相談ください。

参考:「法律相談 | 意識不明の父の事業を、法定相続人の同意があれば特定の相続人は代行できるのか?

会社を継がない場合の連帯保証債務と借金の相続

【質問】

株式会社の代表である父が会社名義で借金をし、連帯保証人になっています。母は他界し子は私一人です。父が亡くなり誰も会社を継がない場合、私が借金を返す必要があるのか、また役員の兄弟は債務を負うのでしょうか。

【回答】

相続放棄を行えば、はじめから相続人でなかったことになるため、お父様の借金を返済する義務を負いません。相続放棄を行わない場合、お父様の連帯保証債務を引き継ぐため返済義務が生じます。会社名義の借金自体は相続の対象外です。また、役員の兄弟は連帯保証人でなければ原則債務を負いませんが、ご相談者様が相続放棄をした際には負債を引き継ぐ可能性があります。

参考:「法律相談 | 会社名義の借金、父の死後に子供が返済する義務はあるか?

認知症の父の会社乗っ取りと成年後見人への対応

【質問】

認知症の父が後妻に連れ去られ、会社も乗っ取られました。選任された成年後見人は後妻側に丸め込まれ、横領の疑いがあるのに「父の意思」を盾に動いてくれません。後見人の方針を是正させるにはどのような措置が可能でしょうか。

【回答】

後見人を責めるよりも、事情を汲み取り味方になってもらう働きかけが得策といえるでしょう。親族であれば、家庭裁判所の許可を得て後見人の報告書類の閲覧・謄写が可能です。実情を把握できる可能性があるほか、最終手段として後見人の解任請求も検討できます。

参考:「法律相談 | 父の痴呆状態での後妻による乗っ取りと後見人の不適切な対応について、どのような措置が可能でしょうか?

親族内承継の手続き・対策を弁護士へ相談するメリット

親族内承継を安全かつ確実に進めるためには、法的なリスク管理が不可欠です。

法的なトラブルを未然に防ぐため、弁護士へ相談すべき理由を詳しく解説します。

法務リスクの洗い出しと事業承継計画の策定サポート

弁護士は、現在の会社の定款や株主名簿、取引先との各種契約書を法的な観点から精査し、将来起こりうるリスクを正確に洗い出します。

具体的には、潜在的な紛争の種となる条項の修正や、未整備な社内規定の適正化を行い、法的基盤を強固にします。

その上で、税負担の軽減措置と法的な安全性を両立させた、自社にとって最も実現可能性の高い事業承継計画の策定をサポートします。

これにより、経営権の移転に伴う法的な不備を最小限に抑え、スムーズな代替わりを実現するための道筋を提示します。

遺言書・種類株式の設計から親族間交渉までを一任

法的に一切の不備がない公正証書遺言の文面作成や、会社法に則った複雑な種類株式の発行手続きは、高度な専門知識が求められる業務です。

特に自社株の分散を防止し、後継者に議決権を集中させるための「拒否権付株式」や「無議決権株式」の活用など、戦略的な制度設計を提案します。

また、遺留分に関する除外合意の手続きや、親族間で感情的な対立が生じた際の交渉なども、弁護士が第三者の代理人として間に入ることで、冷静かつ円滑に意見をまとめやすくなります。

当事者同士では解決が難しい問題も、法的な根拠に基づいた説明によって親族の納得感を得やすくなるでしょう。

税理士等の他士業と連携した包括的なサポート体制

事業承継においては、税金計算、不動産や法人の登記、企業価値評価などの対応が必要になるケースが多く、多様な専門分野の知見が交差します。

これらの知見を結びつけることで、多角的な視点から最適な承継の方法を構築します。

企業法務や事業承継に強い弁護士は、上記の専門分野の知見を有する税理士、司法書士、会計士を含む他士業と強力なネットワークを日常的に構築していることが多いため、相談窓口を一本化して包括的なサポートを受けることができます。

ワンストップでの対応により、情報の齟齬や手続きの漏れを防ぎ、経営者の負担を大幅に軽減しながらプロジェクトを完遂に導きます。

親族内承継に強い弁護士を探すならココナラ法律相談

親族内承継には、会社の未来の成長と、親族間の人間関係を左右するとても複雑な問題が伴います。

安易に考えていると、いざという時に取り返しのつかない税負担や裁判トラブルを引き起こすリスクがあります。

会社の財産と親族の絆を守り抜きたいとお考えの経営者の方は、自社株の評価が固まる前の早期段階での弁護士相談をおすすめします。

ココナラ法律相談では、事業承継や相続問題の解決実績が豊富な全国の弁護士を、地域や相談内容の条件に合わせて検索し、比較検討することが可能です。

将来への不安を確かな安心に変えるため、まずは信頼できる専門家を見つけ、最初の相談予約を入れてみてはいかがでしょうか。


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この記事の監修

佐々木 秀綱弁護士のアイコン画像

佐々木 秀綱 弁護士(第一東京)

東京都 / 港区

TEMPLE法律事務所

相続・遺言に注力する弁護士