ビル大家が普通賃貸借契約から定期賃貸借契約変更を提案してきたが拒否して契約更新を続けることは可能か?

美容室をテナント契約、開業して9年になります。
先日ビルの大家(管理者)から
「今年4月にある普通賃貸借契約更新の際に定期賃貸借契約に変更してくれないか」
「定期賃貸借契約終了後は退去してくれないか」
との内容を仲介不動産会社を通じて通知されました。
とりあえず大家の「意向」なのでまだ決定事項では無いとの事です。
主な理由は建物の老朽化を大家は上げています。

当方の他にこのビルにはもう1店舗入っています。
去年の9月にこの店舗は普通賃貸借契約を更新しています。
当方も今回そのまま普通賃貸借契約更新する意向ですし、契約の変更は到底受け入れる事は出来ません。
大家にも「少なくとも15〜20年は美容室を営業する意向だ」と開業時にも伝えて了承頂いてテナント契約しています。
建物自体は築年数は約35〜40年程経っていますが当方は問題なく営業できていますし、大家が日頃、ビルのメンテナンスを定期的にもしていません。

大家としては定期賃貸借契約に変更させて立ち退かせたいのだと思います。
顧客も定着して、これからも働いて行かなければ生活も成り立たちません。
何より大家から毎回理不尽な意向を一方的に伝えられると精神的にも辛いです。
法律の観点から以下の質問へのアドバイスをよろしくお願い致します。

【質問1】
大家から提案の定期賃貸借契約は拒否して現在の普通賃貸借契約更新をそのまま行うことは法律上、借主として権利主張に正当性・問題はないでしょうか?

【質問2】
大家から提案の定期賃貸借契約を拒否して契約更新料の支払いや契約締結もそのまま問題なく手続き可能か?

【質問3】
現在締結している普通賃貸借契約更新を正常に締結したいです。

【質問1】について
大家側(賃貸人側)からの定期借家契約への
変更の申入れは、あくまで契約内容の変更の申入れないし新たな契約締結の申入れに過ぎず、賃借人側(あなた)に応じる義務はありません。
 あなたがこの変更に応じない場合、賃貸人側は、普通賃貸借契約の更新拒絶をして来る可能性があります。
 しかしながら、借家人の保護の観点から制定された借地借家法という法律が存在し、賃貸人側が更新拒絶をしようとしても、当然に認められるわけではなく、更新拒絶には借地借家法第28条の「正当の事由」が存在する必要があります。
 賃貸人側が退去を求める理由として、建物の老朽化、後々の事を考えて早目に家を取り壊したい、修繕費にお金がかかる等が挙げられることがよくありますが、そのまま鵜呑みにせず、慎重に検討すべきでしょう。
 あなたとしては、賃貸人側の立ち退きの要求には、「正当の事由」が認められないと主張し、物件の使用を継続していくことが考えられます。
 
【質問2】について
賃貸人側が借地借家法のルール等を踏まえ、普通賃貸借契約の更新に応じる場合には、従前どおりの合意更新となります。
 他方、賃貸人側が更新に応じない場合(正当の事由が認められない等の借地借家法上の要件をみたさない場合)には、いわゆる法定更新となります。すなわち、賃貸借契約は継続することになりますが、借地借家法第26条1項ただし書のとおり、期間の定めがない建物の賃貸借となります(「従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。」)。
 
【質問3】について
法定更新であった場合、更新後の賃貸借は期間の定めがないため、大家側は解約の申入れをすることが可能ですが、大家側の解約の申入れが当然に認められる訳ではなく、借地借家法第28条により、その解約の申入れには正当の事由が認められる必要があります。

 より詳しくは、お手もとの賃貸借契約書を持参の上、賃貸借•借地借家法の分野に取り組んでいる弁護士に直接相談なさるのが望ましいように思います。その上で、借地借家法等のルールを上手く活用の上、適切に対応して行くべきでしょう。

関連する借地借家法の条文も紹介しておきます。美容室を営業する利益を擁護して行く際に参考になさって下さい。

【参考】借地借家法
(建物賃貸借契約の更新等)
第二十六条 建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。
2 前項の通知をした場合であっても、建物の賃貸借の期間が満了した後建物の賃借人が使用を継続する場合において、建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときも、同項と同様とする。
3 建物の転貸借がされている場合においては、建物の転借人がする建物の使用の継続を建物の賃借人がする建物の使用の継続とみなして、建物の賃借人と賃貸人との間について前項の規定を適用する。
(解約による建物賃貸借の終了)
第二十七条 建物の賃貸人が賃貸借の解約の申入れをした場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から六月を経過することによって終了する。
2 前条第二項及び第三項の規定は、建物の賃貸借が解約の申入れによって終了した場合に準用する。
(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
第二十八条 建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
(建物賃貸借の期間)
第二十九条 期間を一年未満とする建物の賃貸借は、期間の定めがない建物の賃貸借とみなす。
2 民法(明治二十九年法律第八十九号)第六百四条の規定は、建物の賃貸借については、適用しない。
(強行規定)
第三十条 この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。

適切なアドバイス感謝します。不動産屋が毎回大家の意向を伝えて来ますが、適切な対応が出来そうです。また正当な事由があったとしても契約の破棄はとてもハードルが高いので大家は下手な事を主張出来ないと思います。借地借家法の条文もありがとうございました。これからの業務にも活かしていきたいと思います。

・「当方の他にこのビルにはもう1店舗入っています。
去年の9月にこの店舗は普通賃貸借契約を更新しています。」
ご自身も懸念されていらっしゃるように、
老朽化は方便で、チェーン店など資本力のある新規契約希望者からのアプローチを受けているのかもしれません。具体的な建てかえの話がでているわけでもないようですし。

管理会社(不動産会社)としても切り替えによるうまみがあるので、

A:定期賃貸借では賃料が減額される、フリーレント(賃料無料期間)が付く

B:物価高などから更新後は賃料増額を求める。用法順守違反があると指摘。

といった2方向での交渉が今後予想されます。
Aの方針に関してはご自身の経営判断で対応できるものですが、
Bの方針に関しては場合によっては弁護士にご相談された方がよろしいかと思います。