昨今の物価高の影響により、住民税の支払いを負担に感じられる方は少なくありません。
しかし、家計が苦しいからといって住民税の支払いを「後回し」にしたり、忙しさを理由に「放置」してしまうと、ある日突然、銀行口座や給料が差し押さえられる可能性があります。
差押えは予告なく行われることもあり、一度差押えをされてしまうと、完納するまで解除されません。
こうした事態を避けるためには、住民税の制度や適切な対処法を事前に理解しておくことが重要です。
この記事では、住民税を滞納した場合のリスクと差押えを回避するための具体的な方法について、わかりやすく解説します。

住民税とは、都道府県、市区町村に納める地方税で、地域の行政サービス(教育・福祉・道路・ごみ処理など)の財源になります。
市町村民税と都道府県民税を総称して「住民税」といいます。
また、住民税の支払方法には、特別徴収と普通徴収があります。
会社員の方は特別徴収によって給与から天引きされています。
他方、自営業者や退職者は、普通徴収により自分で支払います。
この場合、6月中旬頃に市町村から1年分の住民税の決定通知書が送られてくるので、年4回(6月・8月・10月・翌年1月)に分けて納付します。

もし住民税を納付期限までに支払わないとどうなるでしょうか。
住民税の納付期限を過ぎた場合、延滞金が発生するだけでなく、督促、財産調査、差押えの順に手続きが進んでいき、差押えに至ると、銀行口座や給与が強制的に差し押さえられ、社会的信用の低下につながる可能性もあります。
以下では、住民税を滞納した際にどのように手続が進むのか、その具体的なリスクについて順を追って解説します。
住民税の納付期限を過ぎると、本税を完納するまで延滞金が加算されます。
延滞金の額は、次の計算式によって算出します。
本税額×延滞金の割合(※1)×延滞日数÷365日(※2)=延滞金(※3)
(※1)延滞金の割合
延滞金の割合は、原則として年14.6%(納期限の翌日から1月以内は年7.3%)と高い利率が定められています(地方税法326条1項1号)。
ただし、市中金利の動向や事業者の負担軽減の観点から、特例として延滞金等の割合が引き下げられています(地方税法附則3条の2第1項)。
※2月ではありません(国税と混同した誤った解説が散見されます。)。
(※2)うるう年でも365日で計算します。
(※3)延滞金の端数処理
租税特別措置法93条2項に基づき、各年の前々年の9月から前年の8月までの各月における国内銀行の新規の短期貸出約定平均金利の合計を12で除した割合として、各年の前年の11月30日までに財務大臣が告示する割合(平均貸付割合)に、年1%を加算した割合をいいます。
この特例基準割合及びそれに基づく延滞金の割合は毎年変動します。
なお、令和2年12月31日までは名称が「特例基準割合」でしたが、令和2年改正により、令和3年1月1日からは名称が「延滞金特例基準割合」に変更されています。
住民税を滞納した場合、市町村から勤務先に対して「債権差押通知書」が送付されます。
これにより給与が差し押さえられ、住民税を滞納していることが勤務先に知られることになります。
また、一旦、給与の差押えが行われてしまうと、滞納税額に満つるまで差押えの効力が継続します(国税徴収法66条)。
そのため、原則として完納まで給与の差押えが解除されることはありません。
なお、給与の差押えが行われた場合であっても、その全額が差し押さえられるわけではありません。
生活維持のために一定の差押禁止範囲が法律で定められています(地方税法331条6項・国税徴収法76条1項各号)。
差押禁止とされるものは次のとおりです。
※令和8年度税制改正により最低生活維持費の額が引き上げられました(国税徴収法施行令34条)。
したがって、滞納処分による給与等の差押可能額は次のとおりです。
差押可能額=給与支給額-(1+2+3+4+5)
私債権の強制執行とは差押禁止範囲が異なる点に注意
国税や地方税の滞納処分による給与の差押禁止範囲は、私債権の強制執行による給与の差押禁止範囲(民事執行法152条1項)とは異なります。
民事執行法では「手取額の4分の3」等が差押禁止とされていますが、国税・地方税の滞納処分では上記の計算式に基づき、より細かく差押禁止範囲が定められています(この点については、誤った解説が散見されますので、ご注意ください。)。
また、国税や地方税における給与の差押えには、私債権の強制執行における差押禁止債権の範囲の変更(民事執行法153条)に相当する手続きは設けられていません。
住民税を滞納した場合、市町村によって銀行口座が差し押えられることがあります。
銀行口座の差押えは、給与差押えと異なり、事前の予告がないまま実施されるケースがほとんどです。実際、ATMで残高がゼロになって初めて気づいたという相談は非常に多く見られます。
また、給与差押えは差押禁止範囲があるため、最低限の生活費が手元に残りますが、銀行口座の差押えにはそのような制度がありません。
預金残高がそのまま差し押さえられるため、家賃や電気・ガス・水道料金、食費などの支払いができなくなり、生活に深刻な支障が生じることも少なくありません。
住民税を滞納し、督促状の発付から10日が経過すると、市町村は法的に差押えを行うことができます。
給与を差し押える場合、市町村は勤務先等に対して直接「債権差押通知書」を送付します。
そのため、勤務先等に滞納を知られることは避けられません。
そして、勤務先に滞納が知られることによって、以下のような影響が生じ、社会的信用を損なうおそれがあります。
特に企業によっては、給与差押えが発生した従業員を内部的に管理対象とするケースもあります。

住民税の納付義務は、法定納期限の翌日から5年が経過すると時効によって消滅します(地方税法18条1項)。
また、偽りその他不正の行為があった場合は、時効期間は7年に延長されます(地方税法18条の2第3項)
もっとも、住民税の時効は、次のような行為によって更新(リセット)されます。
これらの行為があると時効が再びゼロから進行するため、実務上、時効が完成することはほとんどありません。
したがって、時効の完成を期待して住民税を放置すると、延滞金が加算され続けるだけで、結果的に負担が大きくなるため、決しておすすめできません。

住民税を滞納すると、督促状の発付から10日が経過した段階で、市町村は差押えを行うことができます。
これらの手続きは裁判所を介さずに進むため、滞納者が気づかないうちに準備が進められ、突然、銀行口座や給与が差し押さえられることがあります。
以下では、その流れを順を追って解説します。
納税者が納期限までに住民税を完納しない場合、市町村の徴税吏員は、納期限後20日以内に、督促状を発しなければならないこととされています(地方税法329条1項)。
なお、督促状が送られてくる封筒の色について、黄色=催告書(警告)、赤色=差押予告(最終通告)などと説明されることもありますが、自治体によって統一的な基準があるわけではなく、封筒の色よりも、送られてきた書類の内容のほうが重要です。
督促状の発送日から10日が経過しても滞納が解消されない場合、市町村の徴税吏員は、滞納者の財産を差し押さえなければならないとされています(地方税法331条1項1号)。
もっとも、実務では、督促状の発送から10日が経過した場合であっても、いきなり滞納者の財産が差し押さえられるわけではなく、「催告書」や「差押予告書」という段階を経て、差押えの執行がなされるケースが多いといわれています。
市町村が差押えが必要であると判断した場合、まず、滞納者の財産調査を行います。
徴税吏員は、その必要と認められる範囲内において、以下の者に質問し、その者の財産に関する帳簿書類その他の物件を検査し、又は当該物件の提示・提出を求めることができます(地方税法298条4項、331条6項・国税徴収法141条以下)。
具体的には、滞納者の勤務先や銀行口座、取引先(売掛金)、不動産などが調査対象となります。
財産調査によって滞納者の財産が判明した場合、市町村は滞納処分による差押えを行います。
その後、差押えた財産を公売したり、債権を取り立てたりして換価し、その金銭を滞納税額に充当します。
なお、私債権の場合は、その回収のために裁判所に訴訟を提起するなどして判決等(債務名義)を取得する必要があります。
他方、国税や地方税については、行政自らが滞納処分として差押えを行う権限(自力執行力)が認められており、裁判所を経ずにいきなり差押えが可能です。

差押えを回避するために最も現実的な方法が、市町村との「分納(分割納付)」の合意です。
督促状が届いた段階で、市役所の納税窓口や市税事務所に相談し、毎月いくらなら支払えるか等の具体的な計画を提示すると、差押えを猶予してもらえる可能性が高くなります。
また、誠実な納税意思を示すためにも、少額でも初回納付を行うことが重要です。初回納付があると、分納計画の合意が得られやすくなります。
災害・病気・事業の廃止等により住民税の納付が困難な場合には、「徴収の猶予」「換価の猶予」「滞納処分の停止」といった納税の緩和措置があります。
これらが認められると、最大1年間の徴収・換価の猶予、延滞金の軽減・免除、差押えの停止・解除が可能となり、生活維持の観点から救済が図られることがあります。
以下、それぞれの制度について、概要を説明します。
市町村長は、納税者が、災害、病気、事業の廃止・休止、事業につき著しい損失を受けたときなど一定の事由に該当し、住民税を一時に納付し又は納入することができないと認められるときは、その者の申請に基づき、一年以内の期間に限り、その徴収を猶予することができます(地方税法15条1項)。
担保の提供が必要な場合があります。
徴収の猶予が認められた期間中は、新たな督促や滞納処分(交付要求を除く)が禁止されます(地方税法15条の2の3第1項)。
また、市町村長は、差押え済みの財産がある場合、滞納者の申請により、その差押えを解除することができます(地方税法15条の2の3第2項)。
徴収の猶予期間中の延滞金は、その一部又は全部が免除されます(地方税法15条の9)。
市町村長は、職権又は申請により、差し押さえた財産を直ちに換価することにより、納税者が、事業の継続や生活の維持を困難にするおそれがある場合など一定の事由に該当する場合において、納税者に誠実な納付意思があると認められるときは、1年以内の期間に限り、滞納処分による財産の換価を猶予することができます(地方税法15条の5、15条の6)。担保の提供が必要な場合があります。
また、市町村長は、必要があると認めるときは、差押えにより滞納者の事業の継続又は生活の維持が困難になる財産について、差押えの猶予や解除をすることができます(地方税法15条の5の3、51条の6の3)。
換価の猶予期間中の延滞金は、一部が免除されます(地方税法15条の9)。
市町村長は、滞納者が以下のいずれかに該当するときは、滞納処分の執行を停止することができます(地方税法15条の7)。
また、市長村長が滞納処分の執行を停止した場合、差押え済みの財産があるときは、その差押えを解除しなければならないとされています(地方税法15条の7第3項)。
さらに、滞納処分の停止が3年間継続したときは、滞納住民税を納付又は納入する義務は消滅します(地方税法15条の7第4項)。
滞納処分の停止期間中の延滞金は、全部が免除されます(地方税法15条の9)。
市町村長は、天災やその他特別の事情がある場合において市町村民税の減免を必要とすると認める者、貧困に因り生活のため公私の扶助を受ける者その他特別の事情がある者に限り、当該市町村の条例の定めるところにより、市町村民税を減免することができることとされています(地方税法323条)。
自治体ごとに基準は異なりますが、家計状況を示す資料(給与明細・家計簿・医療費など)を提出することで、税額の一部または全部が免除される可能性があります。
差押えを避けるだけでなく、根本的な負担軽減につながる制度です。

住民税の滞納トラブルに強い弁護士を探すなら、「ココナラ法律相談」をご活用ください。
インターネット上で地域や分野などの条件から弁護士を絞り込み検索できるため、ご自身にぴったりな弁護士をすばやく見つけ出せます。
さらに、ココナラ法律相談は「法律Q&A」も提供しています。
法律Q&Aは、弁護士への相談内容を無料で投稿できるサービスです。
「そもそも弁護士に相談すべき問題なのかわからない」とお悩みであれば、まずはお気軽に法律Q&Aで弁護士へ相談してみてください。

住民税の滞納は、延滞金の増加や差押えによって生活に大きな影響を及ぼします。
しかし、分納や猶予、減免などの制度を適切に利用すれば、差押えを避けながら生活再建を図ることができます。
支払いが難しいと感じたら、早めに自治体や専門家へ相談することが、最悪の事態を防ぐための最も確実な方法です。