飲食店での転倒による怪我。損害賠償請求は可能でしょうか?

2023年3月下旬
とある飲食チェーンを利用した母が、清掃中(立ち入り禁止では無い)の店内で転倒し左手首を骨折、全治3ヶ月の診断を受けました。
事故当時、清掃を行っていることは本人も確認しており注意を払って通過しようとしたが怪我をしました。
店舗担当者からは、治療にかかった費用を全額補償するとのことですが、損害賠償などを請求することは可能でしょうか?

回答のほどよろしくお願いいたします。

店舗側に転倒事故を防止するにあたっての注意義務違反があったと言えれば、損害賠償請求は可能です。
(ただし、転倒者側にも過失ありとして、何割かの過失相殺がなされる場合があります。)

注意義務違反の有無は、当時の個別具体的な事情により判断されます。
例えば、床材等の性質、清掃により濡れるなどしてどの程度滑りやすくなっていたか(清掃の仕方)、当日の天候、店内の混雑具合や客の動線、店員による注意喚起の有無、過去に同様の事故があったか否か…などなど、様々な要素を見ていく必要があります。

一度弁護士にご相談されることをオススメします。

なお、治療費も損害賠償に含まれますが、慰謝料など、具体的な損害賠償算定の仕方についても、ご相談なさるとよいと思います。
お大事になさってください。

近時、スーパーの転倒事故につき、対照的な結論となった2つの判決が出されています。参考までに簡潔に紹介します。

【東京地裁令和3年7月28日判決】
 客がスーパー店内に設置されたサニーレタスの特売コーナー前に垂れていた水に足を滑らせ転倒し負傷したとして、スーパー側に損害賠償を求めた事案。
 「サニーレタスは水で戻してから販売する必要があることが認められるところ、被告においては、その陳列場所周辺の床が、サニーレタスに付いた水が垂れることによって一定の範囲で濡れることとなる可能性を認識していたと認められる一方、被告がその危険性を考慮して一定時間の間隔で清掃等の転倒防止のための対応を採っていた形跡がうかがわれないことからすると、上記の態様で発生した本件事故について、被告は、信義則上の安全管理義務に違反したものというべきである。」
 → 客にも過失が20%あると認定して過失相殺の上、スーパー側の不法行為責任として約2100万円の損害賠償責任を認める。

【東京高裁令和3年8月4日判決】
 客がスーパーのレジ付近通路の床に落ちていたカボチャの天ぷらを踏んで転倒し負傷したとして、スーパー側に損害賠償を求めた事案。
 「前記認定の本件店舗におけるかぼちゃの天ぷら等の惣菜の販売方法からすれば、惣菜売場においても、青果物売場と同様に落下物が比較的に多くなる可能性はあるが、これは飽くまでも売場付近での話であり、レジ付近の通路とは区別して考える必要がある。」「これまで他の店舗も含めレジ付近で落下物による転倒事故が発生したことはなかったことが認められる。」「他方、レジ前通路を通行する利用客からは同通路は見通しがよく、同通路上に商品等の落下物があったとしても目に付きやすく、店舗内が混み合っている時間帯でも足下の落下物を回避することは特に困難なことではないと認められる。」「控訴人において、顧客に対する安全配慮義務として、あらかじめレジ前通路付近において落下物による転倒事故が生じる危険性を想定して、従業員においてレジ前通路の状況を目視により確認させたり、従業員を巡回させたりするなどの安全確認のための特段の措置を講じるべき法的義務があったとは認められない。」

このように、事案によって結論が分かれることがあるため、一度、弁護士に直接相談してみることもご検討下さい。
 なお、今回のような日常生活上の事故の際、責任のある相手に対して損害賠償請求する際の弁護士費用がご加入の保険から出る特約が付いている場合があります(ご自宅の火災保険や自動車の任意保険等を確認してみて下さい。加入したつもりがなくても、確認してみたら付いていたということがありますので)。