「相手と話がまとまったので示談書を作りたいが、何をどう書けばよいのか」
「相手方から示談書が送られてきたけれど、この内容にサインしてよいのか分からない」
示談書は、いったん署名押印を交わすと、後から内容を覆すことが難しい書面です。
条項の意味を理解しないまま署名すれば、本来受け取れたはずの賠償を取りこぼしたり、想定していなかった義務を負ったりすることがあります。
この記事では、示談書とはそもそも何かという法的な位置づけから、ひな形と記載例、離婚問題や交通事故など場面ごとの作成時の注意点、公正証書にする意味までを扱います。
示談書は、正しく作れば当事者双方を守る書面になります。
この記事を読み終えるころには、目の前の示談書に何が足りないのか、自分が何を確認すべきなのかが見えているはずです。
納得のいく解決に向けて、一歩ずつ進めていきましょう。

示談とは、トラブルの当事者が裁判所を使わずに話し合い、お互いに譲り合って解決の条件を決めることをいいます。その決めた条件を文書にしたものが示談書です。
たとえば、加害者が被害者に一定の金銭を支払い、被害者はそれ以上の請求をしない、という取り決めが典型です。
示談そのものは口約束でも成立しますが、口約束だけでは、後になって「そんな約束はしていない」「金額はもっと高かったはずだ」と食い違いが起きたときに、合意の内容を証明する手立てがありません。
示談書は、合意の存在と中身を目に見える形で固定するために作るものなのです。
示談は法律上、和解契約という契約の一種として扱われます。
和解契約とは、争っている当事者が互いに一歩ずつ譲って、争いをやめることを約束する契約のことです(民法695条)。
和解契約には、もう一つ重要な性質があります。
和解で決めた内容と実際の権利関係が食い違っていたとしても、和解した内容のとおりに権利が確定するというルールです(民法696条)。
言い換えれば、示談で50万円と決めた後に「本当は100万円の損害があった」と分かっても、原則としてその差額を追加請求することはできません。
示談書に署名する前に内容を吟味しなければならない理由は、この「和解の確定効」にあります。
金額や条件に少しでも迷いがあるなら、署名を急がないという判断が大切です。
示談書に書かれた内容は、法的な拘束力があるため、気が変わったという理由だけで一方的に破棄することはできません。
支払いを約束した側は約束した金額を支払う義務を負い、受け取る側はその金額を請求する権利をもちます。
また、金銭の支払い以外の条項においても、接触をしないという約束や、内容を第三者に話さないという約束も、契約上の義務として扱われます。
守らなければ、契約違反として損害賠償を請求される可能性があります。
示談書は、争いになったときに合意の存在と内容を証明する有力な証拠になります。
署名押印がある書面は、その内容どおりの合意があったと推認されやすく、後から「そんな内容には同意していない」という主張が通りにくくなります。
一方で、署名押印がない書面や、記載が曖昧な書面は、証拠としての効力が落ちます。
支払金額、支払期限、支払方法を数字と日付で特定して書くことが、証拠としての価値を高めるために重要です。
以下に一般的な事案を想定した示談書のテンプレートを示します。
そのまま使うと、自分の事案に必要な条項が抜け落ちたり、必要のない条項が入ったまま合意してしまうリスクがありますので、条項は必ず一つずつ自分の事案に合わせて調整しましょう。
|
示談書 ◯◯◯◯(以下「甲」という。)と△△△△(以下「乙」という。)は、後記の件(以下「本件」という。)に関し、以下のとおり示談する。 第1条(本件の内容) 乙は、令和◯年◯月◯日午後◯時ころ、◯◯県◯◯市◯◯町◯丁目◯番◯号において、甲に対し、◯◯の行為をした。 乙は、本件について事実を認め、甲に対して深く謝罪する。 第2条(示談金) 乙は、甲に対し、本件の解決金として金◯◯万円(金◯◯◯,◯◯◯円)の支払義務があることを認める。 第3条(支払方法) 乙は、前条の金員を、令和◯年◯月◯日限り、甲の指定する下記口座に振り込む方法により支払う。振込手数料は乙の負担とする。 ◯◯銀行 ◯◯支店 普通預金 口座番号◯◯◯◯◯◯◯ 口座名義 ◯◯◯◯ 第4条(期限の利益の喪失) 乙が前条の支払を怠り、その額が金◯万円に達したときは、乙は当然に期限の利益を失い、残額に年◯パーセントの割合による遅延損害金を付して直ちに支払う。 第5条(接触禁止) 乙は、今後、甲に対し、面会、電話、電子メール、SNSその他一切の方法により連絡を取らず、また甲の住居および勤務先に近づかない。第三者を介した連絡も同様とする。 第6条(守秘義務) 甲および乙は、本件および本示談の内容を、正当な理由なく第三者に開示しない。ただし、弁護士等の専門家への相談、法令に基づく開示はこの限りでない。 第7条(違約金) 乙が第5条または第6条に違反したときは、乙は甲に対し、違約金として金◯◯万円を支払う。 第8条(清算条項) 甲および乙は、本件に関し、本示談書に定めるもののほか、甲乙間に何らの債権債務が存在しないことを相互に確認する。 本示談の成立を証するため、本書2通を作成し、甲乙各自1通を保有する。 令和◯年◯月◯日 甲 住所 氏名 印 乙 住所 氏名 印 |
次章でそれぞれの条項が何のためにあるかについて解説しています。

示談書に決まった書式はなく、必要な事項が書かれていれば、手書きでもパソコンで作成したものでも問題ありません。
ここでは、示談書に入れることの多い条項について、それぞれ何を書くのか、どのような意味があるのかを解説します。
すべての条項が必要なわけではありませんので、自分の事案に必要なものを選んでください。
表題は「示談書」「合意書」など、書面の性質が分かるものにします。
前文では、誰と誰の間の合意なのかを特定します。
当事者の特定は、住所と氏名を戸籍や住民票のとおりに記載します。
会社が当事者になる場合は、商号、本店所在地、代表者の役職と氏名を書きます。
刑事事件で、被害者が加害者に住所を知られたくない場合は、弁護士が間に入って住所を伏せた形で作成することもあります。
当事者の特定と被害者の安全のどちらを優先するかは事案によりますので、弁護士に相談して決めるのが安全です。
どのトラブルについての示談なのかを特定する条項です。
この後説明する清算条項の効力がどこまで及ぶかは、この特定に左右されるため、示談書の中でも重要度の高い部分です。
次の要素を盛り込んで、第三者が読んでも一つの出来事に絞り込める書き方にします。
支払う金額を、算用数字と漢数字を併記するなどして明確に書きます。
金額があいまいだと、示談書全体の実効性が落ちます。
治療費、休業損害、慰謝料といった内訳を書いておくと、何に対する支払いなのかがはっきりし、後の税務上の扱いや、他の請求との関係を整理しやすくなります。
他方で、内訳を細かく書くと、項目ごとに争いが再燃するおそれもあります。
損害の費目が複数にわたる事案では、内訳を書いたうえで清算条項を置く形が扱いやすいでしょう。
いつまでに、どのような方法で支払うのかを特定します。
振込で支払う場合は、次の点を明記します。
現金を直接手渡す場合は、受領した旨を示談書に記載するか、別途受領書を作成します。
現金の授受は後から証明しにくいため、可能であれば振込にして記録を残すほうが安全です。
分割払いのときの期限の利益喪失条項
示談金を分割で支払う場合は、支払回数、1回あたりの金額、毎月の支払日を書きます。
そのうえで、期限の利益喪失条項を入れておくことが重要です。
期限の利益とは、期限が来るまでは支払わなくてよいという、支払う側の利益のことです。
分割払いでは、各回の支払期日までは残りの金額を支払わなくてよいことになります。
期限の利益喪失条項は、支払いを怠ったときにこの利益を失わせ、残額を一括で請求できるようにする条項です。
実務では、2回分以上を怠ったとき、あるいは遅滞額が一定額に達したときに期限の利益を失う、という形がよく使われます。
あわせて、遅れた場合の遅延損害金の割合を定めておくと、回収のときに計算がしやすくなります。
「事案を特定する条項」のところでも触れた、追加請求を封じる条項です。
書き方の一例は次のようなものです。
甲及び乙は、本件に関し、本示談書に定めるもののほか、甲乙間に何らの債権債務が存在しないことを相互に確認する。 |
この条項について、支払う側は、後から蒸し返されないよう、できるだけ広い範囲の清算条項を望みます。
受け取る側は、まだ確定していない損害を切り捨てないよう、範囲を絞るか、留保をつけることを検討すべきです。
損害の全体が固まっていない段階でどうしても示談したい場合は、後から判明した損害については別途協議する、といった留保条項を入れる方法があります。
ただし、留保の書き方によっては清算条項と矛盾して解釈が割れることがあるため、この組み合わせを使うときは弁護士に文面を確認してもらうことをおすすめします。
清算条項が入ると、後から「実はこんな損害もあった」と気づいても、原則として追加請求ができなくなります。
特に、損害の全体像がまだ確定していない段階で清算条項付きの示談書に署名すると、確定していない分の請求権まで失うことになりかねません。
署名の前に、自分が把握している損害はすべて金額に反映されているか、まだ発生していない損害はないかを確認してください。
清算条項の効力の及ぶ範囲は、条項の書き方で変わります。
「本件に関し」という限定がついていれば、その特定のトラブルについてだけ清算されます。
限定がなければ、当事者間の一切の債権債務が清算対象になると読まれる可能性があります。
別の取引や別のトラブルが同じ相手との間にある場合は、この一文の有無が大きな差になります。
宥恕とは、被害者が加害者を許すという意味です。
宥恕条項は、被害者が加害者の処罰を望まない意思を書面に残す条項で、刑事事件の示談書では中心的な意味をもちます。
書き方の一例は次のようなものです。
甲は、乙の謝罪と本示談の成立を受けて乙を宥恕し、乙の刑事処罰を求めない。 |
検察官が起訴するかどうかを判断する際や、裁判所が量刑を決める際には、被害者の処罰感情が考慮されます。
被害者が処罰を望んでいないという事情は、加害者にとって有利な事情として扱われます。
ただし、宥恕条項があれば必ず不起訴になるというものではなく、事件の性質、前科前歴の有無、被害の程度など、多くの事情が総合的に判断されます。
被害者がすでに被害届や告訴状を提出している場合、これを取り下げる旨の条項を入れることがあります。
名誉毀損罪や器物損壊罪などの親告罪では、告訴を取り消すと検察官は起訴できなくなります。
告訴の取消しは公訴が提起されるまでの間にでき、そして一度取り消した人は同じ事件について再び告訴できません(刑事訴訟法237条)。
被害届の取下げは処罰を望まない意思の表れとして扱われるため、親告罪ではない犯罪においても、実際の判断に影響します。
加害者が被害者に対して、面会、電話、メール、SNSでの連絡、自宅や勤務先への接近などをしないことを約束する条項です。
痴漢や盗撮などの事件、ストーカー的な行為があった事案、不貞行為のトラブルなどでよく使われます。
実効性をもたせるには、禁止する行為を具体的に書くことがポイントです。
連絡手段を列挙する、勤務先や自宅から一定の距離に近づかないと書く、第三者を介した接触も禁止すると書く、といった形で範囲を明確にします。
偶然すれ違った場合まで違反とされないよう、故意に接触した場合に限る旨を添えることもあります。
示談の事実や内容を第三者に話さないことを約束する条項です。
守秘義務条項は、事案が周囲に広まることを防ぎたい当事者にとって重要ですが、実際に守られたかどうかの立証は簡単ではありません。
誰が漏らしたのかを特定できないまま終わることも多く、条項だけで完全に情報の拡散を防げるわけではない点は理解しておく必要があります。
実効性を高めたい場合は、後述する違約金条項と組み合わせる方法があります。
なお、弁護士や税理士など職務上の守秘義務を負う専門家への相談、家族への説明、裁判所や捜査機関からの求めに応じる場合などは例外とする一文を入れておくと、後の運用で困りません。
接触禁止条項や守秘義務条項に違反した場合に、一定額を支払うことを定める条項です。
違反があったときに、実際にどれだけの損害が出たかを立証しなくても、あらかじめ定めた額を請求できる点にメリットがあります。
一般的には、示談金の額とのバランスや、違反によって想定される不利益の大きさを踏まえて設定します。
違反の内容に比べて著しく高額な違約金は、公序良俗に反するとして全部または一部が無効と判断される可能性があります。
また、違約金を請求するには、違反の事実を証明する証拠が必要です。
接触があった日時と状況の記録、やり取りの画面、目撃者の話など、証拠を残す手段をあらかじめ考えておくと、条項が実際に機能します。
末尾に、示談が成立した年月日を記載します。
その下に、当事者双方が住所と氏名を記載し、押印します。
印鑑は認印でも有効ですが、重要な示談では実印を使い、印鑑登録証明書を添えると、本人が押したことの証明力が高まります。
示談書は当事者の人数分を作成し、それぞれが1通ずつ保管します。

示談書の基本構造は共通ですが、力点の置き方や、追加で必要になる条項は事案によって変わります。
ここでは、不貞行為、交通事故、刑事事件、労働問題、金銭トラブルの5つの場面について、押さえるべきポイントを整理します。
不貞行為の慰謝料についての示談書では、金銭の支払いに加えて、再発を防ぐ条項(接触禁止条項・違約金条項など)が重要になります。
清算条項の書き方にも注意が必要です。
不貞行為の慰謝料は、配偶者と不貞相手の双方に請求できますが、両者の責任は重なり合う関係にあります。
不貞相手との示談で清算条項を入れると、その後に配偶者へ請求できる範囲に影響することがあります。
離婚を検討している場合は、離婚条件の話し合いと切り離さずに、全体の整理を先に考えておくとよいでしょう。
守秘義務条項については、勤務先や周囲に知られたくないという事情は双方にあることが多く、相互に義務を負う形にすると合意しやすくなります。
交通事故については、けがの治療が続いている段階では、治療費や休業損害の総額が計算できません。
症状が続いているのであれば、医師の判断を踏まえて治療を継続し、症状が固定してから示談交渉に入るのが基本的な進め方です。
後遺症が残る可能性がある場合は、後遺障害の等級認定の結果が出るまで示談を待つのが基本です。
等級認定の前に清算条項付きの示談書に署名すると、これらを請求する権利を失うおそれがあります。
また、不法行為による損害賠償請求権は、損害と加害者を知った時から人身事故では5年、物損事故では3年で時効にかかるので注意が必要です(民法724条、724条の2)。
刑事事件の示談書では、宥恕条項と、被害届や告訴の取下げに関する条項が中心になります。
示談が成立し、被害者が処罰を望んでいないことが示されると、検察官が起訴を見送る判断につながることがあります。
起訴された後であっても、量刑を判断する際の有利な事情として考慮されます。
また、検察官が起訴するかどうかを判断するまでの間に示談を成立させられるかどうかで、その後の展開が変わってきます。
逮捕や勾留がされている事案では、期間が限られているため、動き出しの早さが重要になります。
ただし、加害者本人が直接、被害者に連絡を取ることは避けるべきです。
被害者に恐怖を与えるおそれがあるうえ、口裏合わせや証拠隠滅を疑われて、身柄拘束が続く方向に働くことがあります。
被害者の連絡先は、弁護士が捜査機関を通じて取得し、弁護士が窓口になって交渉するのが一般的です。
未払い残業代、不当解雇、ハラスメントなど、労働関係の問題については、退職条件との整理が論点になります。
解決金の支払いとあわせて、退職日、退職理由(自己都合か会社都合か)、離職票の記載、貸与物の返還、秘密保持の範囲などを取り決めることが多くあります。
清算条項については、未払い賃金や残業代が別に残っていないかを確認してから合意することが大切です。
貸したお金が返ってこない、物を壊された、といったトラブルでも示談書を作ります。
この場面では、支払いの確実性を高める工夫が中心になります。
分割払いにする場合は、期限の利益喪失条項と遅延損害金を必ず入れます。
金額が大きい場合や、相手の資力に不安がある場合は、連帯保証人を立てる条項を検討します。
支払いが最後まで続くかどうかに不安があるなら、公正証書にすることの効果が特に大きい場面です。

条項を整えるという内容の他に、作成時に気をつけるべき点があります。
ここでは、署名の前に確認すべきこと、示談のタイミング、当事者間の接触、金額の設定、印紙の要否、保管方法、時効との関係を取り上げます。
相手から示談書を渡されて、その場で署名を求められることがあります。
しかし、署名押印を済ませてしまうと、後から不利な条項に気づいても修正は困難です。
だからこそ、金額だけでなく、清算条項の範囲、支払期限、違反したときの効果まで、署名前に落ち着いて確認する時間を確保してください。
迷いがあるうちは署名しない、という姿勢が最も確実な防御になります。
意味の分からない条項が一つでもあれば、署名する前に説明を求めるか、弁護士に確認してもらうべきです。
「早く解決したい」という気持ちから、支払える見込みのない金額で合意してしまうことがあります。
しかし、支払えなければ結局は債務不履行となり、遅延損害金が積み上がり、強制執行を受けることにもなりかねません。
示談の際は、一括で支払えないなら分割にする、金額そのものを交渉するといった調整を、合意の前に行ってください。
示談交渉を続けている間にも、損害賠償請求権の時効は進行します。
示談が成立すれば、そこで生じるのは示談書に基づく新たな債権であり、時効の起算点も改まります。
逆に、交渉がまとまらないまま時効期間が過ぎると、請求そのものができなくなるおそれがあります。
交渉が長引いている場合は、時効を止める手続を検討する必要があるため、早めに弁護士に相談してください。

前述の通り、いったん成立した示談は、原則としてやり直せません。
ただし、契約として成立していないと評価される場合や、後から取り消せる場合が例外的にあります。
ここでは、その例外にあたる4つの場合について説明します。
重要な点について思い違い(錯誤)をしたまま合意し、その思い違いがなければ合意しなかったといえる場合には、示談を取り消せることがあります(民法95条)。
もっとも、示談の前提としていた事実そのものが違っていた場合など、限られた場面での主張になります。
また、思い違いをしたことについて本人に重大な落ち度があるときは、取消しが認められません。
だまされて合意した場合や、脅されて合意した場合には、示談を取り消すことができます(民法96条)。
実際に取消しを認めてもらうには、だまされたことや脅されたことを裏づける証拠が必要です。
そのため、示談交渉の過程では、やり取りの記録を残しておくことが自分を守ることにつながります。
その場で署名を強く迫られた、断ると不利益をほのめかされたといった経緯があるなら、そのときの状況をできるだけ早く書き留めておいてください。
社会の一般的な道徳観念に著しく反する内容の合意は、無効になります(民法90条)。
示談書の場面では、次のような条項が問題になり得ます。
無効になるのは問題のある条項だけで、示談書全体が無効になるとは限りません。
どこまでが無効になるかは、条項の重要度や全体の構造によって判断されます。
事故直後で意識が朦朧としている、認知症が進んで内容を理解できない、といった判断能力を欠いた状態で合意された場合は無効になり得ます。
また、未成年者が親権者の同意を得ずに単独で結んだ契約は、後から取り消せる可能性があります。
未成年者が当事者になる示談では、親権者に立ち会ってもらい、親権者も署名する形にしておくのが安全です。

示談金の支払いが分割になる場合や、相手が本当に支払うか不安がある場合には、示談書を公正証書にする方法があります。
ここでは、公正証書にすると何ができるようになるのか、どのような示談書が対象になるのか、作成の手順と費用、そしてどのようなケースで検討すべきかを説明します。
公正証書の最大の効果は、支払いが滞ったときに、訴訟を経ずに強制執行の申立てができることです。
これを実現するには、公正証書の中に「支払わなかったときは直ちに強制執行を受けても異議がない」という強制執行認諾文言を入れておく必要があります。
この文言が入った公正証書は執行証書と呼ばれ、裁判で勝ったときの判決と同じように、差押えの根拠にできます。
実際に強制執行をする際は、公証役場で執行文の付与を受け、相手に公正証書の正本を送達したうえで、裁判所に強制執行を申し立てるという流れになります。
とくに次のような場合は、公正証書にする価値が高くなります。
公正証書にするには、相手が公証役場に出向くことに同意しなければ作成できません。
そのため、示談交渉の段階で公正証書にすることを条件として持ち出しておくとよいでしょう。
公正証書のおおまかな流れは次のとおりです。

ここからは、ココナラ法律相談の「おしえて!法律Q&A」に寄せられた、示談書に関する実際のお悩みと、弁護士による回答の概要をご紹介します。
示談書については、宥恕条項と不起訴の関係、清算条項の意味、示談書違反時の違約金請求に関する相談が寄せられています。
|
【質問】 脅迫の件で不起訴を目指しています。被害者の方に許していただく宥恕の示談、示談金の支払い、反省の態度のうち、どれが最も重視されるのかを知りたいです。また、将来違反があれば効力を失うという条件付きの宥恕や、再び同じことをすれば重く処罰されると認識している旨の謝罪の文言が、かえって不利に働かないかも心配しています。 |
|
【回答】 重要なのは宥恕の点であり、宥恕の条項が示談書に入っているのであれば、条件が付いていたり、将来を見据えた謝罪の文言があったりしても、特に不利になる内容ではないと考えられます。宥恕の意思が書面で示されていること自体に意味がありますので、文言の細かな表現を過度に心配される必要はないでしょう。 |
|
【質問】 合意書に、本件に関し本合意書記載のほかには何らの債権債務関係が存しないことを相互に確認する、という条項が入っています。この条項が具体的にどういう意味なのかを教えていただけますでしょうか。また、この条項があることで、合意書に書かれた慰謝料が支払われなくなってしまうのではないかという不安もあります。 |
|
【回答】 清算条項は、合意書に書かれた債権債務のほかには、お互いに請求できるものがないことを確認する条項で、後から追加で請求されることを防ぐ目的があります。合意書に記載された慰謝料は「本合意書記載のほか」という表現によって清算の対象から除かれていますので、支払いを受けられなくなるわけではありません。また「本件に関し」という限定が付いていることから、その特定のトラブルに関する範囲にとどまり、それ以外の債権債務には影響しないと考えられます。 |
|
【質問】 夫の不貞相手と、今後接触しないという誓約条項と違約金の条項を入れた示談書を取り交わし、慰謝料も受け取りました。ところが先日、夫と相手が職場で一緒にいるところを目撃してしまいました。これは誓約違反にあたるのでしょうか。相手が連絡を無視している場合、違約金をどのように請求すればよいのか、また証拠が自分の記憶と相手の車の画像しかなくても請求できるのかを教えていただけますでしょうか。 |
|
【回答】 目撃された状況からすると、誓約違反にあたると考えられます。相手が否認する場合には立証が難しくなりますので、ご主人に事実を確認し、そのやり取りを録音するなどして証拠化されるとよいでしょう。請求の方法としては、まずご自身で書面を作成し、内容証明郵便で送る方法が考えられます。書面には、どの誓約書のどの条項に、いつどのような形で違反したのかを特定して記載し、違約金を請求する旨を明記します。支払期限は1週間から2週間程度を設けるのが一般的です。交渉が難航しそうであれば、弁護士への依頼も検討されるとよいでしょう。 |

示談書は、自分たちだけで作ることもできる書面ですが、弁護士に相談することにより、書面の完成度だけでなく、交渉の進め方や、その後の回収まで含めて結果が変わる可能性があります。
ここでは、弁護士に相談することで得られる具体的なメリットを5つの観点から説明します。
示談書でよくある失敗は、必要な条項が入っていないことと、清算条項の範囲が自分の立場に合っていないことです。
弁護士は、事案の内容を聞き取ったうえで、その事案に必要な条項を判断します。
後遺障害が残る可能性があるなら留保をどう書くか、再発を防ぎたいなら接触禁止と違約金をどう組み合わせるか、といった設計を、あらかじめ想定される展開に備えて行います。
相手から示談書を提示された場合も、どの条項が自分に不利に働くかを指摘してもらえます。
示談金の金額に法律上の決まった基準はありませんが、事案の類型ごとに、これまでの解決事例の蓄積から一定の水準が形成されています。
この水準を知らないまま交渉すると、相手の提示額が妥当なのか判断できません。
弁護士は、類似の事案でどの程度の金額で解決されているかを踏まえて、金額の妥当性を検討します。
交通事故では、保険会社が用いる基準と、裁判で用いられる基準とで金額に差が生じることがあり、この点を踏まえた交渉ができるかどうかは結果に影響します。
示談書は、約束された金銭が実際に支払われてはじめて、目的が達成されます。
弁護士は、相手の支払能力や誠実さを踏まえて、公正証書にすべきかどうかを判断します。
分割払いにするなら期限の利益喪失条項をどう設計するか、支払われなかったときにどの財産を差し押さえられるか、といった回収の場面まで想定して条項を組み立てます。
実際に支払いが滞った場合も、催告から強制執行までを一貫して任せられます。

示談書の条項の意味を正確に理解し、自分の事案に必要なものを過不足なく盛り込むには、法律の知識と、同種の事案を扱ってきた経験が求められます。
ココナラ法律相談では、お住まいの地域や相談内容から、示談交渉や示談書の作成を取り扱う弁護士を検索できます。
刑事事件、交通事故、離婚・男女問題など、取扱分野から絞り込むことができ、初回相談を無料としている事務所や、オンラインでの相談に対応している事務所も掲載されています。
示談書の内容に迷いがあるなら、署名する前にご相談ください。
納得できる形で解決するために、まずは状況を専門家に伝えるところから始めていきましょう。