扶養義務の生活保持義務の具体的程度はどの位?文字通り「最後の一切れのパンまで分け与える」レベルなのか

生活保持義務とは、
自分と同じ程度の生活を保障する義務のことですね。
その義務を負担すべき人にたとえ余力がなくても、
その資力に応じて負担すべき義務であるとされていますね。
すなわち、その人に資力がないからといって免除される義務ではなく、
端的には
「最後の一切れのパンまで分け与える義務」
というように表現されますね。

そこで疑問に思ったのですが、
例えば、
保有資産のほとんど無い夫婦がいたとして、
その夫婦に残された物は、
文字通り「最後の一切れのパン」しかない。
そして、夫婦のどちらかがそれを食べなければ、
すぐにでもどちらかが飢え死にしてしまう、
という緊迫した状況にあったとしても、
その夫婦には、
その「最後の一切れのパン」まで分け与える義務が
課されているのですか?

また、上記のような極端な事例ではなくても、
例えば、次のようなケースでは、どうなのでしょうか?

別居中の夫婦がいたとして、
それぞれ生計は別々に暮らしている。
しかし夫には保有資産がほとんどなく、
収入も月に2万円しかない。
そのような状況のなかで、
妻が職を失うなどして無収入になってしまったら、
夫には、月に2万円しか収入がなくても、
妻に対して、自分と同じ程度の生活を保障する義務が発生するのですか?
月に2万円しか収入がないなら、
夫一人だけでも
「健康で文化的な最低限度の生活」
を送ることは不可能だと思いますが、
その場合であっても
夫には、生活保持義務に基づいて、
妻に対して、
自分と同じ程度の生活を保障する義務が発生するのですか?

疑問に思ったので、よろしくお願いします。

回答から申し上げると、どちらもその通りです。
ただどちらも最低限度の生活ができないのですから、通常は生活保護法の受給要件を満たしていると考えられます。事実上は、生活保護の受給申請をする方が先でしょうね。

ご回答ありがとうございます。

それでは、後者の事例において、妻が夫に対して、生活保持義務に基づき扶養料の支払いを求める訴えを提起したら、夫は月収2万円しかないのに、妻に対して扶養料を支払うように裁判所から命じられてしまうのですか?(支払いに応じなかったら、夫はその2万円の月収の中から差し押さえを受けてしまうのですか?)

いいえ、おそらく支払いは命じられません。
実務では別居夫婦の生活保持義務は民法760条の婚姻費用分担の問題として考えられています。
そして婚姻費用分担については、実務上、司法研修所編「養育費・婚姻費用の算定に関する実証的研究」に掲載されている別紙簡易算定表(令和元年度版)によって算定されることがほとんどです。
それによると、夫の収入2万円、妻ゼロ万円で、未成年の子供がいない場合、夫が支払う義務のある額はゼロ円とされています。

ご回答ありがとうございます。

ということは、本質問で例として挙げたようなケースにおける義務(生活保持義務)は、義務としては存在するけれども法により強制まではされることはない、観念上の義務に過ぎないということなわけですか?

いいえ、そうではありません。
生活保持義務・婚姻費用分担義務は法的義務であり、かなり重たい義務です。
ただ、相談者の方の示した例では夫は分担義務を負担しないという結論になるだろうというだけです。

生活保持義務、生活扶助義務といっても、具体的に誰がどんな義務を負うかは簡単には決まらないのです。収入額だけ出されてもその額の半分とすぐに決まるわけではありません。
かつてはいろんな事情を総合考慮するというアバウトな方法だったので実務が長期化し、判断基準がまちまちになったりして混乱していました。そこで平成15年に簡易算定表が東京・大阪の裁判官により提案され、令和元年に東京の裁判官を中心に改訂算定表が提案されたのです。
この改訂算定表は収入や子どもの額の他、通常かかるであろう税金や健康保険料などの公租公課、通常かかるであろう職業費や住居費などを踏まえて額を導き出します。その算定表によると、夫の収入が2万円程度では、妻に渡す分の収入はないだろうと判断されるわけです。

ちなみに、民法の教科書では、生活保持義務と生活扶助義務の違いを素人に分かりやすく説明するために、前者を、「夫婦で一切れのパンや一杯のごはんしかなくてもそれを半分こする義務」とか、後者を、「自分がおなか一杯になってなお、パンやごはんが余っていたら分けてあげる義務」とか説明されます。
しかしそれは両者の違いをあくまで分かりやすく説明するためのものです。実際に実務でそのような判断がなされることはほぼありません。公租公課や職業費・住居費などの他の考慮要素も考えなければなりませんし、何より実際に一切れのパンしかなければ弁護士も裁判所も家事審判をするよりも、生活保護受給などの生活困窮者支援制度の活用をまず考えますからね。
「一切れのパン」とかいう説明は、学者が素人の学生に分かりやすく説明するためのものだとご記憶ください。実務とは乖離しています。

ご返信ありがとうございます。

その改訂算定表とは、このことでしょうか?

婚姻費用・養育費算定表【2019年改訂版】
https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/

この表によれば、
例えば、「婚姻費用・夫婦のみ」の場合は、
義務者の年収が44万円以下なら支払うべき扶養料は0円となりますね。
それでは、
年収44万円以下の義務者には、
「生活保持義務はあるが、実際には支払うべき扶養料は0円。」
ということになるわけですか?

>その改訂算定表とは、このことでしょうか?
そうです。

>年収44万円以下の義務者には、
>「生活保持義務はあるが、実際には支払うべき扶養料は0円。」
>ということになるわけですか?
そうなることが多いかと思います。
ただ、この算定表はあくまで実務の参考として公開されているものです。
たいていの場合はこの算定表で計算されるのですが、他の事情で修正がありうることにご留意ください。

ありがとうございました。