不貞行為の慰謝料での求償権行使と不当利得返還請求
先日、不倫相手との不貞行為の慰謝料で奥様へ100万円を支払うことで合意しました(50万はすでに支払い済、残りは毎月分割で支払っていきます)
男性側へ求償権執行の件で連絡を入れたのですが、「すでに不貞慰藉料として嫁へ150万円を支払っているため、求償請求に応じる義務はない」との回答でした。
支払った証拠として振込明細などを見せてとお願いしたのですが、期限内に応じてくれず無視されています。
奥様のほうへも証拠を見せてと連絡入れたのですが、こちらも無視の状態です…
あちら側は離婚も別居もしないので、奥様は私からの慰謝料100万と旦那からの慰謝料でトータル250万を入手する計算です。
この場合、奥様へ不当利得返還請求をするか男性側へ求償権行使をする。どちらがいいのでしょうか…
そもそも何故相手方が支払った証拠を見せてくれないのか理解できず、誠意のない対応をされているので、このまま泣き寝入りはしなくないです。
また奥様へ不当利得返還請求をするか男性側へ求償権行使をする。以外にいい法的手続きがあれば、是非教えていただきたいです。
よろしくお願いいたします。
まず確認すべきなのは、男性が本当に妻に150万円を支払っているのか、また、その150万円が今回の不貞行為についての慰謝料として支払われたものなのかという点です。仮に、男性が同じ不貞行為について妻に150万円を既に支払っており、その事実を知らないまま、あなたが妻との間でさらに100万円を支払う旨の示談をしたのであれば、民法95条の「基礎事情の錯誤」による取消しを検討する余地があります。
これは、表示した内容そのものを間違えたという「表示の錯誤」ではありません。「夫から同一の不貞について十分な慰謝料が支払われていない」という事情を前提として100万円の支払に合意したところ、実際には既に150万円が支払われていたという基礎事情についての認識の誤りです。従来「動機の錯誤」と呼ばれていた問題に近いものです。
現在の民法95条2項は、この基礎事情の錯誤について、その事情が「法律行為の基礎とされていることが表示されていた」ことを要求しています。法務省も、これは従来の判例法理を明文化したものと説明しています。従来の判例法理とは、動機の錯誤について、その動機が明示又は黙示に相手方に表示され、法律行為の内容となった場合には錯誤を認め得る、という考え方です。ここで重要なのは、「表示」は必ずしも明示でなくてよいということです。
例えば、「離婚に伴う財産分与について、財産を渡す夫が自分には譲渡所得税が課税されないと誤解していた事案」について、そのような課税関係が明示的に合意されていなくても、当事者間のやり取り等から動機が黙示的に表示されていたと評価し得ることを認めています。この判例は現在の95条2項を理解する際にも法務省から具体例として挙げられています。今回も、「夫から慰謝料を受け取っていないことを前提として100万円を支払います」と明言していなかったから直ちに取消しができない、ということにはなりません
同一の不貞行為による損害について、既に夫から相当額の填補を受けているかどうかは、不貞相手がさらにいくら支払うかを決めるうえで重要な事情です。
したがって、示談交渉の経緯や金額決定の過程等から、「同一損害について既に十分な填補を受けていないこと」が当然の前提となっており、そのことが妻にも認識できる形で現れていたのであれば、黙示の表示があったとして錯誤取消しを主張する余地があると考えます
鈴木様
お忙しい中、回答ありがとうございます。
錯誤取り消しを主張したい際、弁護士の方へ何と依頼すればいいのでしょうか?
では、妻に請求するのか、それとも男性に求償するのかという問題です。不貞行為について、不貞をした配偶者とその相手方が共同不法行為責任を負う場合、あなたが自己の負担部分を超えて妻に慰謝料を支払えば、男性に対する求償権が問題となります。
しかし、男性は「自分は既に妻に150万円を支払った」と主張しています。本当に同じ不貞行為について150万円を支払っているのであれば、男性からは「自分も既に相当額を負担しているので、あなたの求償に応じる義務はない」という反論が当然考えられます。
そこで、むしろ妻との100万円の示談そのものを争う方法が問題になります。仮に、男性から150万円が既に支払われていたにもかかわらず、その事実を知らないまま100万円の支払に合意したのであれば、基礎事情の錯誤による取消しを主張し、100万円について支払義務がないことを主張するとともに不当利得として100万円の返還を求めるという構成が考えられます。その意味では、錯誤取消しが認められる事情がそろっているのであれば、男性への求償より妻への請求の方が請求額を大きく構成できる可能性があります。
ただし、不貞慰謝料には法定の定額がなく、婚姻期間、不貞の期間・回数、夫婦関係への影響、別居・離婚の有無等から個別に判断されます。裁判実務上、離婚しない事案では100万円前後、離婚に至った事案では150万円前後が一つの目安として語られることがありますが、これは固定的な基準ではありません。また、男性が証拠を見せないこと自体は不自然ではありません。振込明細や妻との示談書をあなたに渡せば、妻に対する返還請求に協力することになるからです。夫婦関係を継続する以上、そのような協力をしないことは十分考えられます。
したがって、今後重要なのは、①男性の150万円の支払が事実か、②今回の不貞慰謝料として支払われたのか、③あなたとの示談より前の支払なのか、④あなたの示談書やLINE等から「他に十分な損害填補を受けていないこと」が示談の当然の前提だったと認定できるか、という点です。明示的な確認がなかったとしても、それだけで錯誤取消しを諦める必要はありません。最高裁判例及び現在の民法95条の考え方からすれば、交渉経緯等を総合して「当然の前提」が黙示的に表示されていたと主張する余地があります。
質問:錯誤取り消しを主張したい際、弁護士の方へ何と依頼すればいいのでしょうか?
回答:今なされたお話をそのままお伝えすればいいのだと思います。