認知症の母の財産管理と家族の安全確保に関する法的相談

認知症の母の財産管理と、同居家族の安全確保について

【1.家族構成と現在の危機的状況】
私は、筋ジストロフィーにより自力で身体を動かすことが極めて困難な妻と、18歳の子どもと暮らしています。同じ家に、認知症の実母と実父も同居しています。
母は金銭への執着が強く、要求が通らないと激しい癇癪を起こします。昼夜を問わない電話、ドアへの執拗なノック、玄関への威圧的なメモ、階下からの怒鳴り声などが日常的に続いています。
家には鍵のかかる個室がなく、妻は自力で避難することが困難です。妻と子どもは恐怖と睡眠障害にさらされており、私自身も精神的に限界に達しています。このままでは、妻の在宅介護を継続することも困難になりかねません。

【2.母の財産管理と公的支援の状況】
以前は社会福祉協議会の日常生活自立支援事業(安心サポート)を利用できていましたが、母による関係機関への通報や窓口でのトラブルなどが続き、先月、利用を終了されました。
利用終了後、母は自分の年金等を適切に管理できず、金銭要求や財産に関する訴えがさらに激しくなっています。
固定資産税についても、母に関係する支払いを私が立て替えたことがありますが、私自身、妻の介護を抱えており、これ以上、母のために金銭を負担する余裕はありません。
実父も認知症があり、母との話し合いや施設入所等への協力を得ることが困難です。
母の判断は短時間で変わり、成年後見制度の利用についても安定した合意形成ができません。
主治医にも入院を断られ、行政や福祉機関への相談も行き詰まっています。
専門職後見人の選任を目指したいものの、選任までの間、私が母の財産管理や日常的な対応を引き受け続けることは不可能です。

【3.先生にご相談したい事項】
① 家族の安全確保と法的対応
母の怒鳴り声、執拗な呼び出し、威圧的な言動によって、身体障害のある妻と子どもに恐怖や睡眠障害が生じています。
これらの行為について、障害者虐待防止法上の心理的虐待、民事上の不法行為その他の法的問題に該当する可能性はありますでしょうか。
また、母が警察や行政への通報、弁護士への相談を繰り返し口にする場合、正当な通報・相談と違法な嫌がらせをどのように区別し、家族の安全や生活を守ればよいでしょうか。

② 成年後見人選任までの財産管理
私には、母の通帳、キャッシュカード、年金等を継続的に管理する時間的・精神的余裕がありません。
成年後見人が選任されるまでの間、弁護士等の専門職に財産管理を委託する方法や、その他の暫定的な財産保全手段はありますでしょうか。
また、母の財産管理を私が引き受けない場合、どのような法的責任が生じ得るのかについても教えていただきたいです。

③ 通帳・キャッシュカード・土地権利証等の保管
成年後見人が選任されるまで、母の通帳や土地の権利証等をどのように保管すべきでしょうか。
母から引き渡しを要求された場合、財産の散逸や生活費の不足が懸念される状況で、引き渡しを拒否できる条件や、第三者に保管を委ねる方法はありますでしょうか。
私が独断で財産を処分したり、本人の意思に反して管理を続けたりすることは避けたいと考えています。

④ 成年後見開始前の保全処分
成年後見開始の審判を待つ間に、家庭裁判所へ審判前の保全処分を申し立て、財産管理者の選任など、緊急の財産保全を図ることは可能でしょうか。
本件で利用できる具体的な手続、申立権者、必要書類、費用、実現可能性についてご教示ください。

⑤ 市長申立て等の公的手続
親族による申立てや財産管理が困難な場合、市に市長申立ての検討を正式に求める方法はありますでしょうか。
これまでの相談先で対応が終了・拒否された事情も含め、どの部署に、どのような資料を添えて申し出ればよいかを知りたいです。

⑥ 弁護士費用と法テラスの利用
現在、妻の介護により経済的・時間的な余裕がありません。
法テラスの民事法律扶助による無料法律相談や費用立替制度を利用できる可能性、成年後見申立てや財産保全を依頼する場合のおおよその費用について教えていただけますでしょうか。
母が後見手続の費用を自分の財産から支払うと発言した際の録音も保管しています。
この録音が、本人の意思や判断能力を検討する資料となるかについてもご意見を伺いたいです。

【4.希望する対応】
私は妻の在宅介護を継続する必要があり、母の財産管理や日常的な対応をこれ以上引き受けることができません。
本音を言えば、認知症の母との関りをなくしたいのです。

まずは緊急性の高い財産保全と家族の安全確保について、利用可能な手続と具体的な進め方をご教示いただけますと幸いです。
何卒よろしくお願い申し上げます。

ご相談の状況を踏まえると、まずは奥様とお子様の安全確保を優先し、そのうえで、お母様の財産管理を専門職等に引き継ぐことが重要と考えます。

①お母様による怒鳴り声や執拗な呼び出し等は、その程度によっては民法上の不法行為に該当する可能性があります。障害者虐待防止法の適用については、お母様が奥様を養護する立場にあるか等の検討が必要です。警察や自治体の障害福祉課、地域包括支援センターに相談し、具体的な安全確保策を検討することをお勧めします。

②親子であるからといって、当然に親の財産管理を引き受ける義務があるわけではありません。ただし、既に財産管理を行っている場合には、突然管理を中止することで責任が生じる可能性もあるため、適切な引継ぎが必要です。

③通帳や権利証等については、財産保護を目的としていても、本人の意思に反して保管し続けることが当然に認められるわけではありません。現状を記録し、独断での処分や出金は避けるべきです。

④成年後見開始の申立てと併せて、審判前の保全処分による財産管理者の選任を求めることが可能です。ただし、財産散逸等の具体的な危険性や保全の必要性が求められるため、認められるかは個別の事情によります。

⑤親族による対応が困難な場合、老人福祉法32条に基づく市区町村長申立てを自治体に検討してもらう方法もあります。

⑥弁護士費用は、通常の後見申立てで10万~30万円程度が一つの目安ですが、保全処分等は別途費用が生じ得ます。お母様の録音は本人の意向を示す資料になりますが、判断能力の有無は別途検討が必要です。

本件では、成年後見制度の利用と行政による生活支援を並行して進め、ご相談者様が財産管理から離れられる体制を整えることが望ましいと考えます。

北里 昂一先生、大変お忙しい中、非常に明確で具体的なご回答をいただき、誠にありがとうございました。 

先生のアドバイスを元に、社会福祉協議会(社協)およびケアマネジャーと再度交渉いたしました。その結果、以下の通り現実的な暫定ルートの合意を取り付けることができました。 

【社協・ケアマネジャーとの合意内容】 

1. 暫定的な財産隔離: 後見人が選任されるまでの間、母の通帳や土地権利書等は、社会福祉協議会の「日常生活自立支援事業(安心サポート)」が再度責任を持って預かり・保管し、私を金銭管理から即座に離脱させる。

2. 公式な記録と家族会議: 後日、社協の担当者・ケアマネジャー同席のもとで「家族全員での話し合い」の場を設け、内容を公式に記録する。母の理不尽な通報や癇癪に対しては、この記録を盾に組織として防衛・対応する。

3. 世帯での後見人申立て: 同居家族がいるため「市長申立て」の適用は難しいとのことでしたが、その代わりに社協・ケアマネジャーが全面的に申立て準備をサポートする前提で、実父母2名に対して「世帯で一人の専門職後見人(弁護士等)」を付ける方向で早急に進める。

先生にいろいろと教えていただいたことで、私自身が法的な大義名分を持って交渉でき、行政側も事態の緊急性を正しく認識して、ここまで踏み込んだ対応を引き出すことができました。 

暗闇の中にいましたが、おかげさまで具体的な道筋が見えました。親身になって相談に乗っていただき、心より感謝申し上げます。

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