ベンチャー企業の開発部長解雇は正当か、法的見解は?

上場を控えたベンチャー企業です。
私は企業側人事部長の立場です。

社員の解雇について教えてください。

1年前に、
弊社のレベルでは優遇された条件で雇ったスタッフがいます。
無期限雇用正社員で、
年棒1800万円程の給料です。
開発部長です。

開発部長という
職種限定の高度人材ならば、
配置転換や教育などをせずに
簡単に解雇できると聞きました。

それは事実でしょうか?

実は、
その開発部長が、
開発方針で、よく社長と揉めるので、
社長は完全に嫌気がさしたために、
解雇予告手当を出して、
能力不足という理由で、
解雇にさせてもらいまいた。

※社長の指示です。
社長は完全に鬱陶しくなった模様です。

その後、4か月たってから
その開発部長は、
弁護士を通じて、
不当解雇を申し立てて来ました。
「退職同意の条件として、
給与3年分を出すなら退職に同意する。
そうでないならば裁判にする。」
と。

ネットで検索をして
改めて調べると、
職種を限定とした高度な人材なら、
能力不足理由で解雇にできそうですが?
いかがでしょうか?

1 職種限定の高度人材でも、解雇は容易ではありません
「職種限定の高度専門職であれば、能力不足を理由に容易に解雇できる」という見解は誤解があって、日本の労働契約法上、無期雇用の労働者を解雇する場合には、職種や地位にかかわらず、以下2要件を満たす必要があります(労契法16条)。

① 客観的に合理的な理由があること
② 社会通念上相当であること

この要件は、開発部長のような高年収・専門職でも同様です。
むしろ、高度人材ほど採用時に厳選され、期待水準が高いことから、会社の指導・支援・改善機会を尽くしたかが厳しく問われる傾向にあります。

2 「能力不足解雇」が認められるための実務的要件
裁判例上、「能力不足」を理由とする解雇が有効とされるためには、以下の点を総合的に立証する必要があります。

・具体的な職務上の成果や目標未達など、業績不良の客観的事実があること
・その原因が本人の怠慢や能力欠如に帰せられること
・会社が指導・改善の機会を与えたにもかかわらず改善が見られなかったこと
・会社として配置転換や職務変更など、解雇回避努力を行ったこと

これらを経ずに、「社長との方針対立」「社風に合わない」といった理由で解雇した場合は、人間関係対立型の不当解雇として無効と判断されるリスクが高いです。

3 現状の法的リスク
今回のケースでは、「社長が嫌気をさした」という感情的経緯が背景にあり、同事情を理由とした解雇の合理性・相当性を立証するのは困難と考えられます。

したがって、訴訟になった場合、解雇無効 → 復職+賃金支払い命令または和解(解決金の支払い)となる可能性があります。

4 今後の対応方針
現時点では感情的交渉を避け、弁護士を通じた交渉に一本化のが適切かと思います。「3年分の給与」要求は過大ですが、訴訟リスク・公表リスク・IPO時期への影響も踏まえ、一定の解決金支払いによる早期和解も検討すべきかと思います。

開発部長という
職種限定の高度人材ならば、
配置転換や教育などをせずに
簡単に解雇できると聞きました。
それは事実でしょうか?

簡単とまでは言えませんが、解雇が認められやすくなります。

特定の職種の採用で、その分野の高度の経験があるとして採用された場合は、一般の社員より、その分野での高度な能力はあるはずとして、それを欠く場合に能力不足と評価しやすいとされております。
実際に、そういう趣旨の理由付けで、能力不足での解雇が認められた裁判例もあります。

ただ「社長は完全に嫌気がさしたために」というだけでは解雇は難しいです。

「解雇予告手当を出して、
能力不足という理由で、
解雇にさせてもらいまいた。」
この場合は、なおさら要件も厳しく、労基署に「解雇予告除外認定申請」をする必要もあります。