普通借家契約における立退請求の正当事由と立退料の扱いについて
私は現在、普通借家契約で1年間居住しています。これまで家賃滞納や契約違反は一切ありません。
最近、物件のオーナーが個人から中堅デベロッパーに変更された直後に、立退きの要請を受けました。貸主からの説明は「退去完了後に事業計画を検討する」とのみで、建物の老朽化・耐震性不足・確定した再開発計画といった具体的事情は示されていません。
当方には、来年小学校に進学予定の子どもがいます。同じ学区内で同程度の広さ・賃料水準の住宅は見つからず、転居は非常に困難です。
【ご質問】
1. 上記のように再開発計画や建物の問題が全く示されていない状況では、借地借家法に基づく「正当事由」は存在しないと評価してよいのでしょうか。
2. 立退料は正当事由を補完する要素と理解しています。正当事由が欠ける場合でも、立退料の額によって明渡請求が認められる可能性があるのか、それとも正当事由がなければ立退料の額にかかわらず請求は認められないのか、裁判実務上の判断枠組みや傾向を伺いたいです。
裁判になっても、賃貸人が現在と同様に、正当事由の具体的事情を説明しないのであれば、裁判所は立退料にかかわらず正当事由に欠けると判断すると考えられます。
ただし、賃貸人としても、裁判を始めるのであれば、耐震診断をする、補強工事の見積を取る、再開発の説明資料を作成する、などの準備をするのが通常です。
その場合には、一応の正当事由があるので立退料と引き換えに明渡請求が認められることもありますし、それでも一応の正当事由もないとして立退料にかかわらず正当事由に欠けるとして明渡請求が認められないこともあります。
この度はご丁寧にご回答いただき、誠にありがとうございます。
「現時点では正当事由が欠けている」という点とともに、仮に裁判となった場合には貸主側も耐震診断や再開発の説明資料などを準備してくる可能性がある、とのご指摘は大変参考になりました。
そこで追加でお伺いしたいのですが、もし貸主から今後、完全に営利目的の建替計画(例えば分譲マンションの建設など、一企業独自の開発計画)が具体的に提示された場合、これは「正当事由」として僅かにでも認められる可能性があるのでしょうか。
また、仮にそうした「僅かな正当事由」が認められた場合、立退料の提示によって補完がなされ、全体として明渡請求が認容される方向に傾くことが実務上あり得るのか、ご教示いただけますと幸いです。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
分譲マンションの建設などの一企業独自の開発計画であったとしても、計画の具体的な内容が決まっていることは、正当事由が認められる方向の事情として考慮されることはあります。
ただし、最終的な結論は、建物の老朽化の程度、他の住居の立退きの状況などによるところが大きいと思います。
ご回答をいただき、誠にありがとうございます。
「他の住居の立退き状況が正当事由の判断に影響する」という点は、これまで意識していなかったことで、とても参考になりました。
あわせて一点お伺いしたいのですが、入居者がまとまって動くことで立退き要求を退ける方向に作用し得るのか、それとも退去の進捗が考慮される一要因にとどまるのであれば集団で動く意味は薄いのか、この点について実務的な見通しを教えていただけますでしょうか。
また、状況次第では改めて個別でご相談させていただくことも考えております。その際はよろしくお願いいたします。
表立ってまとまって動く必要はないと思いますが、賃貸人との交渉の経過などを情報交換できる方がいれば、有利に交渉を進められることはあると思います。