相談役の発言はパワハラに該当する可能性があるか?
私は中小企業で代表取締役を務めています。
本日は、社内の相談役(前社長)から役員会などの場で繰り返し受けている発言が、パワーハラスメントに該当するのかどうか、弁護士の立場からご意見を伺いたくご相談いたします。
背景
当社は長い歴史を持つ製造業の会社で、私は数年前に代表取締役に就任しました。前社長は退任して相談役となっていますが、現在も強い影響力を持ち、役員会や会議では実質的に経営判断に大きく関与しています。
相談役には会社を支えていただいた感謝の気持ちはありますが、その発言が人格否定や威圧的な内容に及ぶことが多く、私自身も含め役員や社員が萎縮し、会議の場が健全な議論にならなくなっています。
具体的な発言例
実際の役員会の場で相談役から発言された内容には、次のようなものがあります。
「そんなの知らねえよ!って話で済むんですか?」
「自分で言ったやつに、自分で唾を吐いているようなもんでしょう」
「そんな営業マンなんているの?」
「アホいる」
「これで給料をもらうってなったら、普通怒られるよね」
「〇〇社長って何にも尊敬されないでしょ。誰もついていけないでしょ」
「社長こんなに言ったら、楽な方に逃げてます」
「何の意味が?できないやつは、みんなに振ってやってもらうだけ」
さらに、人格否定や過度な叱責と受け取れる発言も多くありました。
「こんなの仕事って言わない」「ずっとやってないじゃないか」「お前が悪いんだって話になる」
「やり方わかんねえんだから、しょうがねえよって言ったらそうだよねって話になるの」
「あと1年でこんなもん終わっちゃう」「1年後に会社がなくなってもいいの?」
「何もやらないんだったら意味ないじゃん」「もうカウントダウンですよ」
「なんでやらないんだ」「ずっと同じことを言ってる」「結局何もやってない」
「やる気ないんじゃない?」「やる気あったらやるよね」
「これ以上できないと言ったら、そういう人いらないよねって話にならない」
「営業部は解散するって言ってくればいいじゃん」
「壊れたテープレコーダーみたいな話になってくるけど」
懸念している点
厚労省の定義によれば、パワハラは
優越的な関係を背景に
業務上必要かつ相当な範囲を超えて
労働者の就業環境を害する行為
とされています。
今回の発言は、
人格否定や存在の否定(「いらない」「尊敬されない」「アホ」等)
過度な脅しや不安を煽る表現(「1年後会社がなくなる」「カウントダウン」等)
繰り返しの強い叱責(同じ論点を何度も詰める)
といった要素を含んでおり、業務改善の指導を超えて精神的圧迫を与えているのではないかと感じています。
私は経営者という立場上、ある程度の厳しい指導や批判は受けるべきだと思っています。しかし、会議の場で繰り返されるこれらの発言が、果たして「厳しい指導」の範囲にとどまるのか、それとも「パワハラ」として法的に評価されるのか、判断がつきません。
ご相談したいこと
上記のような発言は、法的に「パワハラ」と認定される可能性があるでしょうか。
「業務上の指導」と「パワハラ」との境界線を、法律実務の観点からどう考えるべきでしょうか。
万が一パワハラと認められる場合、会社として・代表取締役としてどのように対応すべきか。
記録(音声・議事録など)を残すことや、社内規程上の対処についてどのような準備をしておくべきか。
最後に
私は相談役への感謝を忘れていませんが、このままでは社員や役員が委縮し、会社の成長が阻害されるのではないかと危機感を持っています。弁護士の立場から、上記の発言がパワハラに該当するのかどうか、また今後の適切な対応策についてご助言をいただければ幸いです。
ご相談の状況は、まさに「厳しい指導」と「パワハラ」の境界線に関わる典型的な論点です。法的にパワハラと認定されるかどうかは、発言の内容だけでなく、頻度・態様・場面・力関係・受け手の精神的影響などを総合的に考慮して判断されます。
【法的な整理】
厚生労働省が示す「パワハラの6類型」のうち、今回のケースは特に以下に該当しやすいと考えられます。
精神的な攻撃:人格否定や存在の否定(「アホ」「いらない」など)
脅迫・不安の過度な煽り:「会社がなくなる」「カウントダウン」など将来への過度な不安を与える発言
過度な叱責の繰り返し:同じ論点を何度も詰める行為は、業務指導の域を超えて精神的圧迫と評価されやすい
裁判例でも、
「人格を否定する暴言を繰り返した」「業務改善の指導を超えて、雇用不安を煽る発言をした」といったケースでは、不法行為として損害賠償が認められています。
【判断のポイント】
業務上必要かつ相当な範囲か → 業務改善のための具体的な指摘や指導であれば許容されますが、人格や存在を否定する言葉は必要性を欠きます。
社会通念上許容されるか → 経営者であっても「尊敬されない」「アホ」といった発言は、社会通念上の指導の範囲を逸脱する可能性が高いです。
繰り返し性・公開性 → 会議の場で繰り返される場合、精神的苦痛が強まり、パワハラと認定されやすくなります。
【結論】
ご提示のような発言は、「人格否定・存在否定」「過度な脅しや不安の煽り」「繰り返しの強い叱責」という要素を含んでおり、法的に「パワハラ」と認定される可能性は十分にあります。特に裁判例でも、同様の発言が「精神的攻撃」として違法と判断された事例が複数存在します。
【今後の対応のヒント】
発言の日時・内容・場面を記録(議事録やメモ、録音など)
社内の相談窓口や外部の労働局相談窓口に相談
弁護士に相談し、法的評価や対応策(警告・損害賠償請求など)を検討
ご回答ありがとうございます。
ご指摘いただいたとおり、本件は「厳しい指導」と「パワハラ」の境界に関わる典型的な事案であると実感しております。
現状について補足させていただきます。
発言の日時・内容・場面については、議事録やメモ、録音といった形で記録が残っております。
社内の相談窓口は総務部となりますが、総務部長自身が役員会に同席しており、また他の役員1名も総務部長経験者であるため、相談役の発言を「パワハラ」と捉える意識が薄い状況です。そのため、社内の相談体制に頼ることが難しいと考えています。
私自身、この一連の言動により精神的に大きな負担を抱えるようになり、医師からは適応障害と診断され、休職を勧められている状況です。
こうした事情から、弁護士の先生に直接ご相談し、法的な評価や今後の対応策(相談役への対応、社内体制の整備、外部機関の活用、損害賠償請求の可否など)を検討したいと考えております。
特に、発言が繰り返されている点、会議という公開の場で行われている点、人格否定や存在否定に至っている点は、私自身の健康や就業継続に深刻な影響を与えているとともに、社員や役員にとっても健全な議論を妨げる要因となっていると強く感じております。
改めて、法的観点からのご助言をいただき感謝申し上げます。
今後は、記録を整理したうえで、具体的な法的対応について弁護士の先生に直接ご相談させていただければと考えております。