錯誤を理由とする調停の撤回は可能か

自分は、2023年に亡くなった母の相続をめぐって、同じ相続人の兄が起こした遺留分侵害請求裁判の結果、2025年の判決で請求は棄却され、全ては自分に与えるという遺言書に基づき全ての財産を相続しました。問題はそこに含まれている兄に対する1000万円の債権についてです。当然、相続と裁判の結果により自分が獲得したので、兄に支払うよう請求したのですが理由を付して支払いを拒否しています。
 1000万円の債権とは、母と兄との間で2022年に成立した調停の和解に基づき、兄は母に1000万円の支払いをするという内容のもので、相続により自分が獲得しています。もともと兄には母に対する4000万円の債務の証書があり、母が返済を求めて調停を起こした結果、2022年に3000万円が減額され1000万円の支払い義務を内容とする調停が成立したのです。しかし、それに先立って、2000年には母は全てを自分に与えるという旨の公正証書遺言書を作成していたのです。兄は、今になって、「2022年の調停当時はそのような遺言書の存在を知らなかったので1000万円の支払い義務で応じたのであり、調停は錯誤に基づいている。したがって、和解を取り消す」と主張して、支払いを拒んでいるのです。
 しかし、兄が2023年に起こした遺留分侵害請求の調停、そして訴訟(一審)、控訴と続きますが、その時点では既に遺言書の存在も内容も知っていたにもかかわらず、しかも、4000万円の債権債務が1000万円の支払い義務になったことは重要な争点であったにもかかわらず(自分としては3000万円もの減額が納得できなかった)、兄は調停でも裁判でも調停の和解内容を認め、この件は全然問題としていませんでした。
 
質問は次のようになります。裁判の判決も出ているのに、裁判内容を構成する支払い義務を定めた調停を、判決後に錯誤を理由として撤回することは可能でしょうか?調停の和解内容は兄にメリットがあったからこそ、裁判においては錯誤を主張しなかったという点でも、少なくとも重大な錯誤とは思えません。

民法95条の錯誤ですが、本件はその錯誤の内容の重要性の有無はともかく、2項の「その事情が法律行為の基礎とされていること(動機)が表示されていたとき」に該当しないので、錯誤取消は難しいと考えます。
ちなみに、裁判上の和解や調停における錯誤取消の主張・適用は法律解釈上ありえますが、認められることはほぼないと考えてもよいと思われます。
調停内容自体に対して意思表示を欠く(調停内容の意味がわからずしたという)錯誤があった場合は想定しづらいだけでなく、「動機が表示」されることはほとんどないからです。

そもそも和解をするという意思表示をする上で、ご記載の内容の遺言があるのであれば和解しない(遺言がないのであれば和解する)というように動機部分が表示されていた等の事情がないのであれば、兄側の主張は認められないかと思われます。

梶谷先生、泉先生

ご回答ありがとうございます。動機についてですが、対象となる調停では、母の後見人と兄側との交渉の中で、兄側は「相続によって半額は自分のものになるのだし」と、1000万円で合意した理由を書いている書類(交渉の過程で提示された書類)がありますが、この場合は、動機が表示されていると見るべきなのでしょうか?