民法716条のただし書きについて
民法716条の但し書きにある
「ただし、注文や指図について注文者に過失があった場合には
注文者は請負人が第三者に加えた損害を賠償しなければならないものと定められている」
についてお尋ね致します。
注文者が不動産屋に家の建て替えを依頼した結果、
その工事が始まってから完成する迄の間、
不動産屋及び、その不動産屋から依頼された
個々の下請け業者の作業が起因して隣家に被害が発生しました。
不動産屋及び下請け業者に問題解決を求めたが、
らちが明かなかった為に、度々注文者に相談しました。
結果、注文者曰く、民法716条では責任が無いとの回答で、
業者に対して適切な指図されることなく、放置され、
問題は未解決のまま、隣家に居住されています。
お尋ねしたいのは下記2点でございます。
①隣家から注文者に対し、直接問題を度々相談されていても、
注文者から請負人に対して注意及び指図する義務はないのでしょうか?
②注文者が請け負人に対して隣家が訴える問題を解決するよう
指図しなかったことは過失にはならないのでしょうか?
③隣家から注文者に対し、直接問題を相談られた場合、
注文者がその現場の状況を確認する義務はないのでしょうか?
まず、民法716条について説明させていただきます。
注文者と請負人の関係は民法715条の使用者と被用者の関係ではないため、請負人の不法行為について、注文者が責任を負わないことを定めたものです(716条本文)。
716条ただし書は、請負人の不法行為について、注文者の注文又は指図が原因で注文者の過失による場合は、注文者が責任を負うことを定めたものです。
したがって、716条ただし書きにより注文者が責任を負うか否かについては、請負人がどのような作業で隣家に損害を被らせたのか、注文者がその作業にどのような関与をしたかが問題となります。
ご質問について、
①義務はないと思いますが、注文者としては責任を負うか否かを判断するために、請負人に問い合わせて状況等を確認する必要はあると思います。
②716条ただし書きの過失は、請負人の不法行為に関するものですから、不法行為の後の行動は716条ただし書きの過失には当たりません。
③義務はないと思いますが、注文者としては責任を負うか否かを判断するために現場を確認する必要はあると思います。
早々のご回答ありがとうございます。
誠に恐れ入りますが
改めましてお尋ね致します。
下記の判示と先述の相談事案との違いについてのご教示を
何卒よろしくお願い申し上げます。
①
最高裁昭和43年12月24日判決は、「請負人の過失により建築中の建物が倒壊し、隣家の居住者に損害を与えた場合において、注文者が、土木出張所から建物の補強工作を完備するよう強く勧告を受けたにもかかわらず、請負人にその工作をさせることなく、所定の中間検査も受けないままで瓦葺工事に取りかからせたため、瓦の重みで右建物が倒壊するに至つたなどの事情があるときは、右注文者に注文又は指図について過失があつたもの」と判示しています。
②
最高裁昭和54年2月20日判決は、注文者が請負人に対し、アパートの建築工事を請け負わせたところ、請負人の人夫が隣接する第三者所有の建物の屋根に上って建築資材等を運搬した際、屋根瓦を破壊したという事案において建築工事の注文者としては、建築工事等についての専門的知識がなくても、工事が施行されれば第三者所有の建物に被害を及ぼすことを容易に予測し得たとして、第三者所有の建物に被害を及ぼさないような措置を講ずるよう請負人に命ずべき注意義務があり、また、もし請負人がそのような措置を講じないで工事を施行する場合には直ちに工事を中止させるなどの注意義務があり、この注意義務を尽くさず請負人が工事を施行するのを黙過した注文者は、注文又は指図について過失があったものと判示しています。
716条ただし書きにより注文者が責任を負うか否かについては、「請負人がどのような作業で隣家に損害を被らせたのか」(a)、「注文者がその作業にどのような関与をしたか」(b)が問題となります と回答いたしましたが(※上記の「」・(a)・(b)は今回加筆したものです)、
ご指摘の判例①は、(a)「請負人の過失により建築中の建物が倒壊し」、(b)「注文者が、土木出張所から建物の補強工作を完備するよう強く勧告を受けたにもかかわらず、請負人にその工作をさせることなく、所定の中間検査も受けないままで瓦葺工事に取りかからせた」
次に、判例②は、(a)「請負人の人夫が隣接する第三者所有の建物の屋根に上って建築資材等を運搬した際、屋根瓦を破壊した」、(b)「注文者としては、建築工事等についての専門的知識がなくても、工事が施行されれば第三者所有の建物に被害を及ぼすことを容易に予測し得たとして、第三者所有の建物に被害を及ぼさないような措置を講ずるよう請負人に命ずべき注意義務があり、また、もし請負人がそのような措置を講じないで工事を施行する場合には直ちに工事を中止させるなどの注意義務があり、この注意義務を尽くさず請負人が工事を施行するのを黙過した」
ご相談の事案は、「個々の下請け業者の作業が起因して隣家に被害が発生しました」ということですが、(a)・(b)の具体的な内容が分かりませんので、ご指摘の判例との違いを判断することができません。
ご回答ありがとうございました。
説明不足もあり、回答しづらい内容にご対応下さり誠にありがとうございました。
感謝申し上げます。