婚費審判における収入基準はどの時点のものか?

令和6年1月に婚費申立。2月に双方、収入証明を提出。
令和7年2月に相手方が最新の収入証明の提出を拒否。不成立。
3月に婚費審判に移行。
4月に相手方が体調不良を理由に無職。
婚費はいつの収入で決まるのですか?

婚姻費用•養育費の義務者に失職•無職•低収入等の事情がある場合において、義務者の潜在的稼働能力に基づく収入の認定については、近時、参考になる高等裁判所の裁判例が出されています。

「婚姻費用を分担すべき義務者の収入は,現に得ている実収入によるのが原則であるところ,失職した義務者の収入について,潜在的稼働能力に基づき収入の認定をすることが許されるのは,就労が制限される客観的,合理的事情がないのに主観的な事情によって本来の稼働能力を発揮しておらず,そのことが婚姻費用の分担における権利者との関係で公平に反すると評価される特段の事情がある場合でなければならないものと解される」(東京高裁令和3年4月21日決定 判例時報2515号9頁,判例タイムズ1496号121頁)

「養育費は,当事者が現に得ている実収入に基づき算定するのが原則であり,義務者が無職であったり,低額の収入しか得ていないときは,就労が制限される客観的,合理的事情がないのに単に労働意欲を欠いているなどの主観的な事情によって本来の稼働能力を発揮しておらず,そのことが養育費の分担における権利者との関係で公平に反すると評価される場合に初めて,義務者が本来の稼働能力(潜在的稼働能力)を発揮したとしたら得られるであろう収入を諸般の事情から推認し,これを養育費算定の基礎とすることが許される」(東京高裁平成28年1月19日決定 判例時報2311号19頁、判例タイムズ1429号129頁)

これらの裁判例を踏まえると、婚姻費用•養育費の支払義務者が就労が制限される客観的,合理的事情がないのに単に労働意欲を欠いているなどの主観的な事情によって本来の稼働能力を発揮しておらず,そのことが養育費の分担における権利者との関係で公平に反すると認めれる場合には、義務者の潜在的稼働能力に基づく収入認定がなされることになります。
 あなたのご事案では、令和7年2月に相手方が最新の収入証明の提出を拒否し、調停不成立により同年3月に婚費審判に移行、その後、4月に相手方が体調不良を理由に無職になったという経緯からすると、就労が制限される客観的,合理的事情を相手方が立証できているのか疑義があるところであり、退職前の収入同等程度の潜在的稼働能力が認められる可能性があるように思われます(令和6年12月に提出された収入証証が一つの参考にされるかもしれません)。

基本は審判時点の資料に基づいて判断されます。
ただ、体調不良というのがどの程度のものか、前職を退職した経緯はどうかなどによっては、前職の収入が基本となる可能性もあります。