能力不足による解雇のリスクと高度人材採用の注意点とは?

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上場を控えたベンチャー企業です。 私は企業側総務部の立場です。 1年前に、弊社のレベルでは優遇された条件で雇ったスタッフがいます。 無期限雇用正社員で年棒1200万円程の給料です。 一般社員です。 そのスタッフが、社長との折り合いが悪いので、 予告手当を出して、能力不足という理由で、 解雇にさせてもらいまいた。 その後、3か月たってから 弁護士を通じて、不当解雇を申し立てて来ました。 「退職同意の条件として、 給与4年分を出すなら退職に同意する。 そうでないならば裁判にする。」 と。 顧問弁護士に相談すると、 「社会的客観的な解雇要件を全く満たしていないのに、 手順を踏まずに解雇したほうも悪い。 これは相手方の言い分も正しい。 今から裁判になれば、もう既に半年経過しているし、判決まで1年半以上は掛かるでしょう。 しかも、能力不足理由では、まず勝てない。 そうなればバックペイにプラスして合計4000万円程度は最低でも 解決金を支払わされる。そんな判例は沢山ある。」 とのことですが・・・。 質問です。 「いくら解雇しやすい高度人材の中途採用でも、 能力不足理由では、まず勝てない。」 この意味はどういうことでしょうか? 能力不足は解雇のハードルは高いのでしょうか?高度人材の中途社員は解雇しやすいのでしようか?

秋田市 さん

弁護士からの回答タイムライン

  • 能力不足を理由とする解雇も有効とされるためには、労働契約法第16条で定められているような要件をみたする必要があります。  能力不足を理由に解雇を行う会社は多く、裁判でも解雇の有効性がよく争われる類型といえます。  ただし、裁判所が能力不足を理由に解雇を有効と判断するハードルは企業•会社側が思っているよりも高い傾向があります。  貴社の顧問弁護士としては、社長との折り合いがよくない程度の状況では、高度人材の中途採用であったとしても、客観的に合理的な理由を欠く、社会通念上相当とは言えない等として、解雇が無効と判断される可能性が高いと言うようなことを言いたいのだと思われます(裁判例では、能力不足の程度の著しさ、注意•指導等を適切に行う等して改善の機会を与えていたか、解雇回避のために企業側としてどのような対応•努力を試みたか等が精査•吟味されています)。 【参考】労働契約法 (解雇) 第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
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  • 懲戒解雇、普通解雇いずれの場合でも、有効に解雇を行うためには就業規則上の解雇事由に該当するというだけでは足りず、「社会通念上の相当性」が認められる必要があります。平たく言えば、解雇の原因となった行為が解雇に値するほどの行為かということが厳格に判断されます。 日本の労働法上、解雇は非常にハードルが高いです。 解雇が有効か無効かという点は能力不足の程度にもよりますが、顧問弁護士の先生は具体的な事情を検討した上で能力不足の程度が解雇を有効とするほどではないと判断されたのだと思います。 例えば、無断欠勤を連続する、会社のお金を横領する等の場合には一発で解雇した場合でも有効と判断されるケースも多いですが、たしかに能力不足のみの場合はかなり解雇のハードルが高いと言わざるを得ません。 なお、懲戒解雇の場合には、戒告、譴責、減給、出勤停止等解雇よりも軽い処分を行い、改善を促したもののそれでも改善されない場合には解雇に踏み切る等段階的に手順をい踏んだ場合は解雇が有効と判断される可能性が高まります。 高度人材の中途社員だから直ちに解雇しやすいというわけではありませんが、高度人材の中途社員の場合は雇用契約上、相応に高い能力を求められているため能力不足か否かの判断が給与の低い新卒の社員と比較すると厳格に判断される結果、解雇の有効性の判断が比較的甘くなるという可能性はあると考えます。 もっとも、高度人材の中途社員の場合でもやはり解雇のハードルは相応に高いものとなります。 今回のようなリスクを避ける観点からは、会社側として無期雇用契約ではなく有期雇用契約で募集する、試用期間付を設ける、業務委託契約を検討するという方法もあり得るかと存じます。 (※業務委託契約を検討される場合は、運用面によっては実質的に雇用契約関係であると判断されるリスクもありますので顧問弁護士の先生にもご相談の上慎重にご判断ください。)
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  • 秋田市
    秋田市さん
    清水先生、田代先生、 ご丁寧な回答ありがとうございます。 高度人材だから解雇しやすいとはならないのですね。 解雇理由書には能力不足の記載でそうです。 しかも、指導も教育も何ないですしね。 困りました。
  • 秋田市様 ご返信いただきありがとうございます。 そうですね。労働法上の解雇のハードルは一般的に考えられているよりも高いと考えます。 指導や教育というお話がありましたので補足しますと、一般的には、中途採用者であっても解雇を行う前には教育、指導、配置転換等の解雇回避努力を行う必要があります。 もっとも、雇用契約を締結する時点で、職種・地位を高度な役職に限定する合意をしていれば、配置転換の解雇回避努力義務はないと判断される可能性もあります。 ①人事本部長という地位を特定して中途採用された管理職について、下位の役職への配転義務を否定して解雇有効とした裁判例(東京高判昭和59年3月30日)、 ②職務経歴を評価して品質管理部海外顧客担当の主事1級として中途採用した労働者の解雇について、長期雇用の新卒者と異なり、他職種への転換教育や配転を検討する義務はないとして解雇有効と判断した裁判例(東京地判平成14年10月22日)等が挙げられます。 解雇無効と判断された裁判例、解雇有効と判断された裁判例はそれぞれありますが、当該労働者の能力不足がどの程度だったかという点の他に雇用契約の内容も考慮されますので、同様のトラブルを予防する観点からは雇用契約書を見直されることも一案かと存じます。
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この投稿は、2025年2月1日時点の情報です。
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