医療過誤による損害賠償と慰謝料の相場について知りたい

医療過誤の損害賠償や慰謝料の相場についてお尋ねします。
私の母は、ある医療機関の誤診が原因で生命予後に重大な影響を与える疾病が放置され、それが原因で亡くなってしまいました。亡くなった当時の年齢は、81歳です。
医療機関の過失は、診療ガイドライン等に照らして比較的明確であり、因果関係も医学文献等を根拠に筋の通った説明が可能です。母は、適切な医療的処置を受けていれば2年程度の余命があったとの医師の意見も得ています。それを前提に、医療機関に損害賠償と慰謝料を請求し、示談交渉に入る予定です。
私の父は既に亡くなっており、親族は、弟が1人いるのみです。
医療機関に請求できる慰謝料の相場は、どの程度になりますか。示談交渉における相場を教えて下さい。
医療機関に請求できる損害賠償の項目を教えて下さい。

一般的に裁判において認容される金額と示談交渉で合意に達する金額との間には、どれほどの開きがありますか。

【質 問】医療機関に請求できる慰謝料の相場は、どの程度になりますか。示談交渉における相場を教えて下さい。医療機関に請求できる損害賠償の項目を教えて下さい。
【回 答】
医療過誤による死亡事故の場合には、死亡事故の場合には、被害者の相続人が、損害賠償を請求することになります。

損害項目としては、以下のようなものがあります。
1.逸失利益について
治療費のように実際に支出した費用のほか、被害者の方が事故に遭わなかったと仮定し、今後就労した場合に得られたであろう収入を請求することができます。被害者の方の事故前の収入や主婦、学生といった個別の事情に応じて算定し、原則として67歳まで稼働したと仮定して算出することになります。もっとも、逸失利益がもらえるのは原則67歳までですが、67歳を過ぎていても就労している場合や、年金を受給している方が事故によって死亡した場合はもらえます。例えば、定年退職後も働いていた方が事故に遭った場合は逸失利益をもらえますが、事故時に就労しておらず年金も受給していなかった場合には原則もらえません。

2. 死亡慰謝料について
医療過誤によって生命を失うことになるため、生命を失ったこと自体に対する精神的損害として請求することができます。医療過誤により大切な家族を失うことになるため、遺族の固有の慰謝料請求も認められることになります。

死亡慰謝料の金額は、
①一家の支柱である場合、
②母親・配偶者である場合、
③その他(独身者、子ども等)の場合によって、
裁判上の一定の基準はあります。それ以外にも 事故の態様や加害者の事故後の態様によって増額が認められるケースがあります。亡くなられるまでに入院を余儀なくされた場合には、治療費や入院雑費、入通院慰謝料等も損害となります。

死亡慰謝料については、交通事故における「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」(赤い本)を参考に示させていだくと、『赤い本(2016年版)』における死亡慰謝料の基準額は、以下のとおりです。医療過誤の場合も参考になると思われます。

1)一家の支柱
2,800万円

2)母親・配偶者
2,500万円

3)その他
2,000~2,500万円

一家の支柱が亡くなった場合の慰謝料額が、他の場合の慰謝料額よりも高くなっています。どうして、被害者の地位によって死亡慰謝料が異なるのかというと、これは、一家の支柱が死亡した場合、遺族は精神的支柱を失うだけでなく、経済的支柱を失ってしまうことになるからです。遺族の扶養的要素を死亡慰謝料に取り入れる必要があるとする判断から、一家の支柱の場合は、他の場合に比べて高い慰謝料額となっています。

【質問】一般的に裁判において認容される金額と示談交渉で合意に達する金額との間には、どれほどの開きがありますか。

【回答】そもそも、示談交渉の場合には、証拠で事実関係などを詰めていないことがあることから、一概には言えませんが、裁判で認められる6割~7割程度にはなると思います。

様々な弁護士事務所のホームページを拝見すると高齢者が医療過誤で亡くなった場合、2000万円が慰謝料の基準として存在するようです。これは、現在の裁判実務において一般的になのでしょうか。

高齢者の場合については、よく「高齢を理由に死亡慰謝料が減額されるのではないか?」と疑問を持つ方がおられます。でも、年齢のみによって死亡慰謝料の金額は変動しないという考え方に基づくのが通常であるといえます。それよりも、上記で述べたとおり、高齢者は、「遺族の扶養的要素」(扶養される側で扶養する側ではないことが多い)がないから慰謝料が減額されるように映るのかも知れません。

慰謝料額については、2000万円を基準に検討することとします。