夫の不倫相手への慰謝料請求、減額交渉への対応は?

夫の不倫相手に慰謝料請求したところ、減額してほしいと連絡がありました。
小学生の子どもが2人いて離婚した場合、慰謝料の相場はいくらが妥当でしょうか。

【前提】
・夫は士業の事務所代表、不倫相手は夫の事務所のアルバイト
・夫とアルバイトだけの事務所で平日はずっと二人きりの状態です。

・夫は以前別の相手と不倫し、別居、慰謝料請求済みです。
・その後、夫婦関係を修復して同居に戻りましたが、今回また不倫が発覚
・現在、再度別居&離婚協議中(夫は実家に住んでいます) 
・現在離婚協議中なので離婚が終わったら不倫相手にまた改めて請求しようと思います。

【相手の考え】
相手方からは「別居の原因が前回の不倫相手にある」、「夫とは上下関係だった」、「まず夫に請求すべき」との理由で求償権放棄という条件付きで減額請求されました。(私は求償権の放棄は求めていません)

【私の考え】
自分で調べたところ「不倫相手が上司など上下関係にある場合、慰謝料の減額理由となる可能性がある」という考えがあるのは理解しましたが下記の理由から納得できないと感じています。

①不倫相手は私も知っている方なので話したことはありますが、彼らはフランクに会話していて、嫌々不倫させられる、という関係には思えませんでした。
②不倫中の写真も見てしまったのですが相手は笑顔でした。
③不倫相手がアルバイトを辞めたのはその写真の日付よりもずっと後です。もし無理やりさせられたならすぐにでも辞めたいと思うのが普通では…と思ってしまいます。
例えば辞めるのが難しい地位であるなら別ですが、時給1000円程度のアルバイトで、性被害を我慢してしがみつくような立場ではないと考えるのが普通でないでしょうか。ただの小さな事務所で決してレアな働き口ではありません。
④相手は最終的には「もう仕事辞めるから、残りの仕事は巻き取ってほしい、書類は家の前に置いておくから取りに来て」といった内容で夫に連絡して一時間ほど遠方の実家に荷物を取りに来させて仕事を辞めました。上下関係が厳しいなら上司にこのような命令をするでしょうか?※当時私は不倫の事実を知りませんでしたが痴話げんかの様だと感じました。
⑤さらに辞めた後しばらく経ってから夫が頼み込んでまた仕事を手伝ってもらっていたようです。
⑥別の不倫相手について時期が重なっていたかはわからないが、私が写真を発見して認知したタイミングは、夫婦関係を修復したあとです。
⑦離婚を早く終わらせたいので慰謝料請求を夫ではなく相手方にしたいです(求償権の放棄は不要)

読みにくい文章で申し訳ありません。何卒ご教示いただけますと幸いです。

慰謝料は、一般的には、離婚を招いた場合は、300万円程度と言われていますが、
不倫に至る個別事情と裁判官サイドの基準もあるので、流動的と思います。

>【相手の考え】
>相手方からは「別居の原因が前回の不倫相手にある」、「夫とは上下関係だった」、
>「まず夫に請求すべき」との理由で求償権放棄という条件付きで減額請求されました。
>(私は求償権の放棄は求めていません)

ご記載の経緯からすると、再度の別居の原因は今回の不貞にあるという評価になるだろうと考えられます。仮に仕事面で上下関係があったとしても、不貞配偶者側の主導性が顕著でない限りは、基本的に責任は半々になるでしょう。また、求償権放棄はあくまで話し合いベースですので、無理に応じる必要はありません。もう少し詳しく事情を伺う必要はありますが、求償権放棄なしで200万〜300万円での示談を目指したいところという印象です。

慰謝料の算定は、「不貞行為をされた人の精神的苦痛をお金に評価する作業」であるということです。

それをするためには、

(1)「不貞行為の悪質性」 ❌ (2)「夫婦関係に与えた結果の重大性」 

を考える必要があります。

(1)不貞行為の悪質性
① 不貞行為の期間   1~3ヶ月なら短い/6ヶ月超えると長い
② 不貞相手との関係性(会社の同僚、上司・部下、風俗、水商売など)
③ 不貞行為の回数   1回~3回の数回なら少ない/1ヶ月に2,3回で半年は多い印象
④ 不貞行為の内容   
⑤ 発覚後も再度関係を持つ
(⑥ 当事者の職業・地位・収入・資産など)
➡これは、昔は考慮されることが多かったが、現在は、余り考慮されないことが多い。
⑦ 不貞発覚後の態度・行動・やり取り・訴訟における対応・態度

(2)夫婦関係に与えた結果の重大性
① 夫婦関係の年数(夫婦の絆の深さ)
➡ 3年以下は短い、15年以上は長い。絆が深ければダメージも大きい
② 夫婦関係の状態
➡ そもそも仲が悪ければ、与えるダメージも小さい。関係良好ならダメージ大きい
関係性には、段階があるものと思われる。
円 満 → 不 満 → 希 薄 → 悪 化 → 形骸化(形だけの夫婦)→ 破綻寸前(別居)→ 破  綻(離婚)
➡どこの状態からどこの状態になったのかによって結果の重大性は異なってくるということが言える(厳密には認定できないが・・・)。

今回のケースについては、「不貞行為の悪質性」と「不貞行為によって夫婦関係に与えた結果の重大性」に関わる判断要素についての情報が少ない様に感じられます。ただ、今回は、離婚(破綻)にまで至っているということから、不貞行為による結果の重大性は認められると思います。もっとも、離婚に至ったか否かを慰謝料の増減額の判断の要素として考慮するべきではないという考え方もあります。文字数の関係で次に述べます。

従来の慰謝料実務からすると、慰謝料については、①不貞行為によって離婚をする場合と②不貞行為によって離婚をしない場合では、不貞行為によって生じた結果の重大性に影響があるから慰謝料の相場が異なるというのが一般的でした。

もっとも、「最高裁の判例」で、「離婚慰謝料」(=相手方の有責行為によって離婚すること自体の慰謝料)と「離婚原因慰謝料」(=離婚原因となった不貞行為についての慰謝料)を分けて考えて、不貞の相手方には、原則として「離婚慰謝料」を請求することができないという考え方を示したものが出ました(最高裁第三小法廷 平成31年2月19日判決)

つまりは、「不貞の相手方に対しては、「離婚原因慰謝料」部分しか請求できないはずであり、「離婚慰謝料」部分は請求できない(すなわち、離婚をようがしまいが慰謝料額は同じだ)」という考え方が出てきたわけです。離婚するか/しないかは、夫婦の問題であり、不貞相手の問題ではないという考え方からです。

そのため、

【従来の一般的見解】      ①不貞によって離婚をした場合と②不貞によって離婚をしなった場合とでは、不貞相手に対する慰謝料は前者の方が高くなるという見解
【最高裁の判例を加味した考え方】①と②では不貞相手に対する慰謝料は変わらないが、不貞配偶者に対する慰謝料は変わりうるという見解。
の二つの見解があります。

当職は、【従来の一般的な見解】に従って説明をしております。というのは、裁判の際に、上記の最高裁の考え方を借用して、主張を展開しておりますが、それを真っ向から受け入れてくれたケースというのが経験上ないからです(他の先生方の経験ではあるかもしれませんので言えません。)。

以上の考え方からして、情報が足りないことから、何とも言えませんが、不貞行為によって離婚になった場合の相場の中間値である150万円~200万円が慰謝料を考える場合の中間値になるのではないかと思われます。慰謝料の増額事由や慰謝料の減額事由を加味して金額が増額・減額するというイメージを持って頂ければと思います。

最高裁(平成31年2月19日判決)は、

「夫婦が離婚するに至るまでの経緯は当該夫婦の諸事情に応じて一様ではないが,協議上の離婚と裁判上の離婚のいずれであっても,離婚による婚姻の解消は,本来,当該夫婦の間で決められるべき事柄である。」と述べた上
                        
したがって,夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は,これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても,当該夫婦の他方に対し,不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして,直ちに,当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。

第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは,当該第三者が,単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず,当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。

以上によれば,夫婦の一方は,他方と不貞行為に及んだ第三者に対して,上記特段の事情がない限り,離婚に伴う慰謝料を請求することはできないものと解するのが相当である。」

と判示しました。

最高裁が言っている通り、「夫婦が離婚するに至るまでの経緯は夫婦の間の多種多様な事情が複数に絡み合ったした結果である」といえます。そうすると、不貞行為の相手の夫婦間にある様々な事情うちの一部の不貞行為のみが、離婚という結果を導いた不法行為なのであると位置付けるのは困難であるといえると思われます。

さらに言うと、離婚は、「本来的には夫婦の自由意思によって決定される」ものであって、離婚慰謝料の被侵害利益である「配偶者たる地位」を喪失するに至るまでには、必ず「配偶者の自由意思」が介在することとなります。 以上からすると、最高裁の判断のとおり、夫婦の部外者である不貞相手(第三者)が「配偶者たる地位」を直接的に侵害することは原則としてはできないものということができるわけです。

鈴木先生
詳しくご回答いただきありがとうございます。
悪質性、重大性についてのその基準についてもよくわかりました。
今回の件も整理してよく考えてみます。
再度相手に連絡してみようと思いますが、知識を得たおかげで心強い思いです。
お忙しいところありがとうございました。

髙橋先生
ご回答いただきありがとうございます。
「仮に仕事面で上下関係があったとしても、不貞配偶者側の主導性が顕著でない限りは、基本的に責任は半々」「求償権放棄はあくまで話し合いベースですので、無理に応じる必要はない」というアドバイスを頂きホッとした思いです。
夫にお金のことを話すとこじれそうなので不倫相手に再度連絡してみようと思います。
お忙しいところありがとうございました。

内藤先生
ご回答いただきありがとうございます。
最終的には裁判官の判断ということになりますよね。
離婚が終わりましたら再度相手に連絡してみようと思います。
お忙しいところありがとうございました。