債務不履行の重要な特則に該当しますか?(時効が10年⇒20年になる?)
15年前に上司から密室で身体的なセクハラを受け、不安障害(PTSD等)と自律神経失調症(めまい・動悸・頭痛等)を発症しました。当時会社に訴えましたがきちんと調査してもらえず、上司の「何も無かった」の言葉で事実関係はなかったと判断されました。その後、体調は悪化し3年間休職し、復職しましたが今も通院を続けています。何度か会社に「上司は嘘をついている。ちゃんと調べて下さい」と訴えましたが上司がどんどん出世し偉くなっていったこともあり相手にされず抑え込まれました。「私は嘘をついていない」と認めてもらいと思い、最近裁判を起こすことを考え証拠を集め弁護士に相談したところ、勝てるだけの証拠はあるといわれました。しかし、安全配慮義務違反は債務不履行責任で時効は10年または5年で時効になるから裁判は起こせないとのことでした。しかし、厚生労働省のホームページで調べると
ハラスメントにおける時効
(2)時効については「民法」で定められている:
(中略)
重要な特則:前頁①の期間は、人の生命・身体の侵害による損害賠償請求の場合、
特則として一部延長される
債務不履行:ⓑの権利を行使できる時から10 年→20 年に延長(民法167 条20)
不法行為:ⓐの損害及び加害者を知ってから3 年→5 年に延長(民法724 条の221)
※生命・身体の侵害:名誉などの人格的利益は含まれないものの、健康を害すること
は含まれる→ということは…
(3)ハラスメントの事案では?
①被害者がケガをする、精神疾患を発症する:上記の特則に当たることは明らか
→時効期間は、債務不履行・不法行為ともに、前頁のⓐが5 年、ⓑが20 年となる
ⓐ損害賠償を請求できることを知っているのに請求していなかった場合は5年、
ⓑ請求できるとまったく知らなかった場合は20年で時効
②不快な気持ちや苦痛を感じたが、精神疾患には至っていない場合
→当然に(100%)特則に当たるとは限らない点に注意が必要
→苦痛の強さに応じて、事案ごとに判断されることになると考えられるが、
例えばPTSD(Post Traumatic Stress Disorder〔心的外傷後ストレス障害〕)22等が
生じた場合は、特則に該当すると解される
とあります。上記によると20年時効が該当する可能性は有るかと思われますが、やはり10年なのでしょうか?よろしくお願いします。
消滅時効を検討する場合には、時効期間だけでなく、「時効の起算日がいつなのか」ということも重要です。
(1) 不法行為構成の場合
不法行為の主観的消滅時効の起算日は「損害及び加害者」を知った時です。貴殿のケースでは、問題の上司を加害者とした場合、復職した時点(6年前?)で一応の治療が終了したと考えると、この時点で「損害」が確定するので、この時点が時効の起算日になります。そうするとこの時点から3年経過した時点(9年前?)で改正前民法の不法行為の時効は完成していることになります。但し、この時点が改正民法施行日である2020年4月1日より後であれば、主観的時効期間は起算日から5年に延長されます。
更に、「今も通院を続けている」とのことですので、損害の確定日を現在まで遅らせて法律構成することも考えられます。その場合、時効は完成していないことになります。
(2) 債務不履行構成の場合
債務不履行構成の場合、労働契約上の安全配慮義務違反の時点が改正民法施行日よりも前だと考えられますので、生命身体損害であるからといって改正民法の適用はなく、時効期間は20年に延長されず、10年のままです。
但し、債務不履行構成の場合も不法行為構成の場合と同様、損害の確定日(「権利を行使し得る時」)を遅らせ、「時効は完成していない」と主張する余地があると思います。また、会社の対応の不備を問題にするなら、義務違反の時点自体を遅らせて構成することも考えられます。
いずれにせよ、もっと詳細な事実関係、特に加害行為の時期や内容、治療経過等が分からないと、明確には回答できません。