契約不成立時の費用請求可能性について
【ご相談の背景】
・フリーコンサルタントの紹介サービスを運営しています。
・ある案件で、登録人材のKさんを紹介しました。正式な契約は結んでいませんが、文書によるオファーを受け取りました。この案件の商流はエンドクライアント→元請け→上位①→上位②→弊社の順で、オファーは上位②から受けました。
・Kさんは他の案件も進行中であり、このオファーを受けるために他の2つの案件を辞退しました。
・しかし、その後1週間ほどで、エンドクライアント側の予算が確保できず、案件が実現しないことが確定しました。
【ご相談事項】
この場合、弊社は上位②に対して費用を請求できると考えていますが、それは適切でしょうか?契約書はありませんが、以下の点が文書で明確に示されています:①契約条件、②オファーの詳細、③他案件辞退の要請。これらの文書は証拠として存在します。
また、どの法律条文に基づいて請求できるか教えていただけますか?Kさんからも請求の要望がありますので、ご回答いただけると幸いです。
以下の観点から、貴社が上位②に対して費用を請求することは難しいと考えます。
1 紹介サービスが有料職業紹介事業にあたること
⑴ 職業安定法において、「職業紹介」とは、「求人及び求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における雇用契約の成立のあっせんをすること」と定義されます(同法4条1項)。そして、「有料の職業紹介」とは、無料の職業紹介以外の職業紹介をいいます(同条3項)。
本件では、貴社の紹介サービスが有料職業紹介事業にあたる可能性があります。
⑵ そして、有料職業紹介事業者が徴収できる手数料は、①受付手数料及び上限制手数料(同法32条の3第1項1号)②届出制手数料(同項第2号)③求職者手数料(同条第2項)④経過措置による求職受付手数料(同法施行規則附則第4項)のみです。
ア このうち、②届出制手数料については、求人の申込み又は関係雇用主が雇用しており、若しくは雇用していた者の求職の申込みを受理した時以降、手数料表に基づく者から徴収することができます(職業紹介の業務運営要領75頁)。
本件では、契約書がないことから、手数料表も準備がないと思料します。
したがって、届出制手数料を徴収することはできません。
イ ①、③、④の手数料については、実際に雇用された場合に手数料が発生すると思われます。
本件では、Kさんは、実際に雇用されていません。
したがって、①、③、④の手数料も徴収できないでしょう。
2 職業紹介事業者間の業務提携について
商流に着目すると、貴社とエンドクライアントとの間に複数の会社が介在しているため直接的な有料職業紹介事業にあたらないとも思われます。この点については、以下の指摘にとどめます。
すなわち、職業紹介事業者間の業務提携について、業務提携による職業紹介を行う職業紹介事業者のうち、有料職業紹介事業における手数料を徴収するのは、あっせん行為を行う職業紹介事業者であることから、その手数料の額は、当該あっせんを行う職業紹介事業者の手数料の定めの範囲内となり、徴収した手数料を有料職業紹介事業者間で事後的に配分することは差し支えない、とされています(前掲運営要領121頁)。
しかし、前述のようにもともと手数料を徴収することが難しく、配分される手数料も観念できません。
したがって、かかる観点からも上位②に対して、請求をすることが難しいと思われます。