「社内協議の結果、完了」と承認後、真逆の低評価。法的に問題は?
個人事業主として動画制作をしています。
クラウドソーシング上の公開評価について、一般的な「低評価への不満」とは少し異なるケースだと考えており、弁護士の先生のご見解を伺いたいです。
企業から動画制作を受注し、初稿を提出しました。
その後、クライアントから具体的な修正指示はなく、最終的に、
「社内で協議した結果、完了で進めていいとのことでした」
「ありがとうございました」
と明確な回答を受けました。
私は当然、この正式な回答を信頼して案件を完了しました。
ところが数日後、同じ企業から公開評価として、
「想像していた動画とは違うものだった」
という趣旨の低評価を付けられました。
私が問題としているのは、単に「低評価が気に入らない」ということではありません。
社内協議まで行ったうえで「完了」と明確に承認した取引記録が残っているにもかかわらず、その後、第三者には見えないその経緯と整合しない低評価が、私の信用情報として公開され続けていることです。
当該サービスでは評価が受注判断や営業上の信用を左右する重要な指標として表示されており、私は個人事業主として、この評価によって営業上・社会的信用を毀損されていると考えています。
運営会社には完了承認を含む取引記録を提示して是正を求めましたが、「評価は主観」として削除・修正を拒否されました。評価者本人にも二度見直しを求めましたが、既読のまま回答がありません。
そこで先生方に伺いたいのは一点です。
このように、取引中の明確な完了承認と整合しない内容が、取引終了後に公開評価として掲載され、個人事業主の信用情報として残り続ける場合、名誉・信用毀損その他の法的根拠から、評価者または運営会社に削除・修正等を求める余地はあるのでしょうか。
法的に難しい事案であれば、その理由も含めて率直なご意見をいただければ幸いです。
削除等を求める余地はありますが、記載された評価文だけを前提とすると、法的に削除を強制するのは難しい可能性が高いです。
「完了で進めてよい」との回答は、納品・検収を終えて取引を完了させる意思を示すものですが、「成果物が想像どおりで満足した」とまで意味するとは限りません。取引を完了させつつ、「想像とは違った」と評価することは、論理的には両立します。修正指示を出さずに低評価を付ける対応には不親切さを感じますが、それだけで違法になるわけではありません。
名誉・信用侵害の判断では、評価が社会的信用を低下させるかに加え、客観的に真偽を確認できる「事実」か、個人の感想・評価である「意見・論評」かが重要です。最高裁平成16年7月15日判決も両者を区別しています。
本件の「想像していた動画とは違うものだった」は、通常は主観的な感想です。「指示を無視した」「修正を拒否した」「納品を完了しなかった」などの具体的事実を述べたものではなく、表現も侮辱的とはいえません。そのため、営業上の不利益が生じ得るとしても、違法な名誉・信用毀損と認められる可能性は高くありません。
もっとも、実際の評価全文に客観的に虚偽と証明できる記載が含まれている場合は別です。近時も、具体的な診療事実を摘示した口コミについて、重要部分の真実性が認められないとして運営者に削除を命じた裁判例があります(東京高裁令和7年7月23日判決)。
まず、発注内容、修正指示の有無、完了承認、評価全文、評価画面、利用規約を保存してください。そのうえで、単に「完了承認と矛盾する」と主張するのではなく、評価中のどの記載が客観的事実で、なぜ虚偽なのかを特定して再申請する必要があります。
返信機能がある場合は、「具体的な修正指示はなく、社内協議後に完了承認をいただいております」と、感情的にならず事実だけを記載する対応が現実的です。運営会社にも、権利侵害が明確でなければ削除義務までは直ちに認められません。
ご回答ありがとうございます。
「想像していた動画とは違うものだった」というコメント自体が、主観的な感想・評価に当たるという点については理解いたしました。
そのうえで、もう一点お伺いしたいことがあります。
本件では、このコメントだけでなく、取引そのものに対して「Bad(悪い評価)」が付けられています。
運営会社は過去に評価基準について、「納品物に齟齬がなく大きな問題もなければGood(高評価)」と公式に説明していました。
本件では、修正の要望を受けることなく、先方が「社内で協議した結果、完了で進めていい」と明確に承認したうえで取引を終了しています。
そこでお伺いしたいのですが、コメント本文とは別に、この「Bad」という評価判定そのものについても、法的には単に評価者の主観的な意見・論評として扱われるのでしょうか。
それとも、運営会社自身が評価に一定の基準を設け、それを利用者の信用指標として第三者に公開している以上、その評価が運営会社の定める評価基準や客観的な取引記録と整合しているかという点も、法的評価において考慮される余地があるのでしょうか。
この点についてもご見解をいただけますと幸いです。
運営会社がGood・Badの条件を明確に定め、その基準に従った評価を求めているのであれば、Badは全く自由な感想とはいえません。
基準上Goodに該当することが明らかな取引に、根拠なくBadを付け、信用指標として公開した場合、規約違反にとどまらず、名誉・信用侵害として不法行為となる余地があります。論評であっても民事上の名誉毀損は成立し得ます。
もっとも、評価基準に反したというだけで、直ちに違法になるわけではありません。まず、その基準が利用規約等に組み込まれた拘束的なルールなのか、運営会社が示した一般的な目安にすぎないのかを確認する必要があります。
さらに、取引中にクレームや修正要望がなく、完了承認されたことは、基準上Goodとすべきであったとの主張を支える重要な事情ですが、それだけで「齟齬や問題がなかった」と確定するわけではありません。発注者が不満を持ちながらも修正を求めずに取引を終了させることはあり得るからです。他方、発注者が「問題ない」「満足している」などと明確に述べていた場合や、評価基準上、問題点の指摘又は修正要請がなければGoodとする仕組みであった場合には、Bad評価の不合理性はより強くなります。
したがって、冒頭のような条件の下であれば、本件は「Badは主観的評価だから一切問題にならない」とはいえません。正確な評価基準、利用規約、完了承認までの取引記録を確認し、客観的にBadの要件を満たしていないことが示せるのであれば、評価者に対する修正要求や、運営会社に対する基準に基づく再審査・削除要求には相応の根拠があります。
ただし、現時点の事情だけで名誉・信用毀損として削除を法的に強制できるとまでは断定できず、評価基準の拘束力とBadを付けた具体的根拠の確認が必要です。
度々のご回答ありがとうございます。
先生から、
「正確な評価基準、利用規約、完了承認までの取引記録を確認し、客観的にBadの要件を満たしていないことが示せるのであれば、評価者に対する修正要求や、運営会社に対する基準に基づく再審査・削除要求には相応の根拠がある」
とのご指摘をいただいたため、改めて運営会社が公表している評価基準を確認しました。
現在の評価制度では、「満足/残念」について具体的な基準が示されており、ランサーに対する「残念」の具体例として、
・大きなトラブルが発生した
・長く連絡が取れず、大幅に予定が遅れた
等が挙げられています。
また、この評価制度への変更時にも、運営会社は「どのような場合にその採点をするのか」の基準を明確にし、ユーザーによる評価のブレをなくす趣旨を公式に説明していました。
一方、本件では、修正依頼/指示を受けることなく、発注企業が社内で協議したうえで「完了で進めていい」と明確に承認し、その後「ありがとうございました」と連絡して取引を終了しています。
このことから、私自身も論点を整理し直しました。
「想像していた動画とは違った」というコメントについては、先生のご指摘どおり、発注者の主観的な感想として残ること自体はやむを得ないと考えています。
一方で、運営会社自身が具体的な基準を設け、第三者の受注判断にも用いられる信用指標として公開している「Bad(残念)」については、別に考えるべきではないかと思っています。
そこで改めてお伺いしたいのですが、
① 上記の評価基準と本件の取引記録を前提とした場合、本件のBad評価について、運営会社に自らの基準に基づく再審査を求めることには、先生がおっしゃった「相応の根拠」があると考えてよいでしょうか。
② その結果、運営会社自身の基準上Badに該当する客観的事情が確認できない場合、コメントは残したまま、Badという評価判定のみを取り下げるよう求めることは、法的にも合理性のある要求でしょうか。
私としては、発注者の「想像と違った」という感想そのものを否定するのではなく、主観的なコメントと、運営会社が基準を定めて信用指標として運用しているBad判定を切り分けて考えるべきではないかという点を確認したいと考えております。
先生のご見解をいただけましたら幸いです。
ご説明の事情を前提とすれば、運営会社に対して公表基準との整合性の確認及びBad評価のみの変更・削除を、それぞれ申し入れることは可能と思います。
もっとも、利用規約等に正式な異議申立て・再審査制度がない場合、運営会社に審査や削除を請求できる法的権利が当然に認められるわけではありません。そのため、コメント自体は争わず、評価基準と取引経過を示して事実上の対応を求め、最終的には運営会社の判断に委ねざるを得ないのではないかと思います。
度々の質問にもかかわらず、丁寧にご回答いただきありがとうございました。
先生からのご回答を通じて、「評価コメントという主観的な感想」と「運営会社が基準を設けているBad評価」を切り分けて考えることができ、本件の論点をかなり整理することができました。
今後は、ご助言いただいたとおり、コメント自体は争わず、公表されている評価基準と実際の取引記録を示したうえで、運営会社にBad評価について改めて確認・対応を求めたいと思います。
複数回にわたり具体的なご見解をいただき、大変参考になりました。
心より御礼申し上げます。