誓約書の法的有効性と署名時のリスクについて相談
今年から新しい会社に入った者です。
入社後に誓約書および身元保証書の提出を求められました。
因みに入社前にはそのような事は知らされておりませんでした。
誓約書の主な内容は以下です。
・5年間は退職しないこと。
・退職する場合は1年前までに申告し、了解を得ること。
・違反した場合、会社に与えた損害を全て賠償すること。
・会社の対応に対して一切異議を申し立てないこと。
・顧客情報や社内情報の守秘義務。
また、身元保証書では、保証人が最大約250万円まで賠償責任を負う内容となっています(期間5年)。
この内容について以下を教えてください。
① 各条項の法的有効性(特に退職制限・賠償条項)
② このまま署名した場合のリスク
③ 修正または拒否すべき条項
④ 将来退職時にトラブルになる可能性
⑤ 実務上どのように対応するのが適切か
※会社名などは伏せさせていただきますが、一般的な労働契約としての観点でご回答いただければ幸いです。
なかなかにひどい誓約書ですね。。。
以下、ご質問者様が、期間の定めのない雇用契約(いわゆる正社員)として雇用されていることを前提にお答えします。
①各条項の法的有効性
・5年間は退職しないこと。
→無効です。期間の定めのない雇用契約の場合、労働者は、2週間前に会社に退職の意思を告げることで、「いつでも」退職することができるからです(民法627条1項
)
・退職する場合は1年前までに申告し、了解を得ること。
→上記と同様の理由により無効です。
・違反した場合、会社に与えた損害を全て賠償すること。
→上記の手続(2週間前に会社に退職を伝える)で退職する限り、それによって会社に損害が生じたとしても、労働者が賠償義務を負うことはありません。
また、上記の手続に違反して退職した場合(例えば、会社に告げずにある日突然出社拒否した場合等)に、会社に生じた損害を賠償する責任を負う場合がありますが、この場合でも、会社は損害額の全額を労働者に請求できるわけではなく、信義則上相当な限度に制限されると解されています。
そして、一社員が会社を辞めたくらいで会社に損害が生じるはずもなく、仮に生じたとしても具体的にいくらの損害が生じたかの立証は困難(損害の立証責任は会社)なので、実際上は、会社の労働者に対する損害賠償請求が認められる場合はほとんどないと言ってよいでしょう。
・会社の対応に対して一切異議を申し立てないこと。
→公序良俗(民法90条)に違反し無効です。
・顧客情報や社内情報の守秘義務。
→これは具体的な内容にもよりますが、基本的には有効です。
顧客情報や社内情報を他に漏らしてはいけないことは、常識的にも理解できると思います。
(続きます)
・保証人が最大約250万円まで賠償責任を負う内容の身元保証書
→直ちには無効とはいえません。しかし、身元保証人が賠償責任を負うのは、労働者本人が賠償責任を負う場合であり、労働者本人が責任を負う場合がほとんど想定されないことは、上記のとおりですので、この身元保証書の出番はないに等しいです。
② このまま署名した場合のリスク③ 修正または拒否すべき条項④ 将来退職時にトラブルになる可能性⑤ 実務上どのように対応するのが適切か
→まず、誓約書記載事項のうち、上述のとおり無効となる条項については、削除を求めます。削除に応じない場合は、誓約書への署名押印を拒否して下さい。無効な内容の誓約書への署名押印を拒否したことをもって、会社はご質問者様に解雇その他の不利益措置をすることはできません。
もっとも、入社したばかりで、誓約書への署名押印を拒むことは心理的にもハードルが高いと思います。上記の無効な条項は、仮にご質問者様が署名押印してしまったとしても、無効のままです。ですので、波風立てないように、誓約書の署名押印をしてしまった上で就労を継続し、将来、何らかの事由で会社側が誓約書に基づく責任を追及してきた場合に、その無効を主張するという方法も考えられます。しかし、最初から署名押印していないのと、署名押印をしてしまったあとに無効を主張するのとでは、後者の方が労が多いです。
やはり、勇気をもって、条項の訂正ないし署名押印の拒否をすべきでしょう。
ご丁寧にご回答いただき、誠にありがとうございます。大変分かりやすく、今後の対応についての参考になりました。
いただいた内容を踏まえ、慎重に対応してまいります。