最高裁調査官の解説の影響

最高裁の判決について
最高裁の判決自体がその後の裁判判決に影響を与えるのは言うまでもない事かと思いますが、最高裁判決についての最高裁調査官の解説内容も相当の影響力を持つのでしょうか?
例えば平成31年2月19日の離婚慰謝料に関する最高裁判決における家原調査官の解説では、離婚を理由とする不貞慰謝料の増額を明確に否定していますが、この解説を根拠に不貞慰謝料が減額される事はできてしまうものでしょうか。

本来的には調査官解説は、あくまで担当した調査官の私的見解に過ぎません。もっとも、裁判官によっては鵜呑みにしてしまったり、そうでなくとも影響力があることもあります。

もっとも、ご指摘の調査官解説でも、離婚の事実自体は不貞慰謝料の額で考慮することを認めています。また、この最高裁判決及び調査官解説の影響はまだ不確定で、いくらか影響したように見える場合もあるものの、どちらかというと裁判官にあまり影響していない(離婚した場合の不貞慰謝料でも、従来の相場より安くなっていない)ことも珍しくないように感じます(あくまで私の知る範囲なので、全体的傾向は不明ですが)。

私的見解というのは解説自体が調査官の職務外という事でしょうか?裁判例もその裁判官の心証を元にしたある意味私的見解ですが、裁判中の裁判官という立場で発言することで、その私的見解が公のものになっています。調査官の職務としてこの解説があるのならば、私的見解とは言えないと思うのですが、この解説は所謂一般書物と同レベルの言論の自由に基づいた記述でしかないという事ですか?

建前としては「私的見解」であり「最高裁判決の解釈を一切拘束しない」ことになっています。実際、後日の最高裁判決で、それまでの調査官解説で述べられた考え方と違う判断が示された例もあります。
実際には職務を通じて得た知識に基づいて書かれたものなのも事実です。
そういうご都合主義の産物なので、一概にどうなるとも言えないのです。
結局は、「完全に追従する裁判官もいれば、そうでもない人もいる」ということになります。

なるほど。詳しいご回答、また分かりやすいご回答ありがとうございます。
ちなみに「ご指摘の調査官解説でも、離婚の事実自体は不貞慰謝料の額で考慮することを認めています。」とはどの部分の事をおっしゃっているのでしょうか?

そもそもあなたのいう調査官解説がジュリスト1544号78頁のことか、法律のひろば72巻7号54頁のことか不明ですが、そのどちらにも「不貞行為の結果,婚姻が破綻し,離婚するに至った場合には,不貞慰謝料の被侵害利益である「夫又は妻としての権利」という人格的利益に対する侵害も大きかったものと評価することができるであろう。したがって,前記のような事情について,慰謝料の増額要素として考慮すること自体は許されるものと解される。」といった記述がありませんか?(引用は判例タイムズ1461号の解説)。
その部分のことです。今は事務所外で確認できませんが、上記の解説のいずれもそういった趣旨があったと記憶しています。

そう読み解いてしまうと直前の一文とは矛盾しており、整合性を欠くように思うのですが、「前記のような事情」とは「当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情」を指すのではないでしょうか。

「しだがって」で接続された文章の直前を指すために「前記」を用いるのは日本語としてもおかしいと思うのですが。